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大阪で働く法務パーソンのはなし

「重要な兼職」とは何か

株主総会の季節が近づいてきました。

私の勤務先も準備の真っ只中ですが、なぜかあまり法務にはお呼びがかかりません。

前職では、招集通知もシナリオも想定問答も準備していたのですが、会社によって本当に違うものなのですね。

内容が固まりかけたところで、「ここはこうでは?」というものだから、今は疎ましく思われているかも…汗

そんな私が最近気になったのは、「重要な兼職」とは何か。

会社法の「重要な」は曖昧

「重要な兼職の状況」は、事業報告と役員選任議案において法定記載事項ですが、会社法の「重要な」のバーは非常に曖昧。 

このあたり、金商法や東証のルールと違って大雑把で助かるなぁと思うこともありますが、もうちょっとバシッと書いてくれたら楽だなぁと思うことも。

印刷会社と証券代行は「本業」と「他社役員」の記載を推奨

ちょうどタイミングよく、東京株懇のサイトでプロネクサスの方による研修資料が公開されていました。

https://www.kabukon.tokyo/activity/data/seminar/seminar_2019_02.pdf

こちらによれば、事業報告においては、以下の基準が考えられるのではないかとのこと。

 

兼職の内容が、「主な職業」と判断される場合

兼職先と当社との間に、一定の関係(取引関係、親子関係等)がある場合

兼職先と当社が、「競業関係」にある場合

兼職先の会社において重要な職務を担当する場合

 

前年は三井住友信託銀行の方が同様の研修をされたようで、そちらの資料には以下のとおり記載されていました。

https://www.kabukon.tokyo/activity/data/seminar/seminar_2018_03.pdf

 

 

重要な兼職の状況の重要性

兼職先の重要性(取引先の重要性など)、兼務先での職務の重要性、兼務先での職務に費やす時間などを考慮して判断することが考えられる。社外役員の場合、弁護士、公認会計士や、大学教授、団体役員などの本業については、重要な兼職として記載すべきものと考えられる。このほか、競業関係にある先および利益相反関係にある先との兼職は、重要な兼職と解される(ただし、監査役については競業や利益相反は通常想定されない。)。

 (略)

重要な兼職の状況における重要性の判断

⇒会社判断によって決定する(略)

  兼職先との取引の内容等から判断する(代表者であっても必ずしも重要な兼職となるわけではない。)

 

プロネクサスの考えのほうが厳しめで、社内役員については、兼職先と何か関係があったり、兼職先の役員を務める場合は、「重要な兼職」に該当し、社外役員については、さらに「本業」も「重要な兼職」ということのようです。

三井住友信託銀行は、利益相反の有無を基準としており、要諦は押さえつつも結構緩めですね。

実務はかなり適当?

自社の相談を受けたので、当社の社外役員の兼職先を中心に選任議案や事業報告を調べてみたのですが、これが結構バラバラ。

証券代行も印刷会社も寡占市場なのに、統一されないものでしょうか。笑

社外役員には、「本業」を持っていらっしゃる方が多いですが、「本業」を兼職先に記載していない事例がわりと見られました。もっとも、略歴には「本業」をしっかり記載しているので、事実上は兼職先を記載しているといえるかもしれません。

グループ会社の兼任状況はどこまで書くか

上場企業ともなれば、2桁(大きいところは3桁)の子会社・関連会社を抱えることも普通にあり、グループ間での役員の兼任は当然のようにあります。この兼任状況をどこまで正直に書くのがいいんでしょうか。

プロネクサス基準でいくと、親子間でも「関係」があるので、開示すべきということになりますが、馬鹿正直に全部書くと、兼任だらけであることが明るみになり、「こんなに兼ねててちゃんと仕事できるのか?」と株主から不信を招きそうです。

・・・という思考が働いているのかしりませんが、実際のところは、代表取締役を兼務している場合のみ開示することが多いのではないかな、という印象を持っています。

おまけ:弁護士は「財務及び会計に関する相当程度の知見」を有しているか

私の勤務先の社外監査役には弁護士がいらっしゃいます。

そこで、毎年のように質問を受けるのが、「財務及び会計に関する相当程度の知見を有しております」と書くことの是非。

その深層心理は、「この弁護士にはない」ということだと思うので、「書くべきでない」が私の答えなのですが、法令上は、「有していれば書きなさい」なので、そのように回答しています。

他の社外監査役が財務・会計のプロなので、当然その記載がつくのですが、件の弁護士だけつかないと見劣りするという忖度なのでしょうか?以前、代案として「法律に関する相当程度の知見を有しております」ではどうか?と持ってこられたこともあるのですが、弁護士をつかまえて「法律に詳しいです」というのもどうかなと思いました。笑

それは、財務・会計のプロをつかまえて「財務・会計に詳しいです」というのも同じなのですが…