約10年前、事業会社に転職して驚いたことのひとつに、「Excelの多用」があります。
「Power Pointの多用」も「Wordの存在感の低さ」も驚きでした。
それまでは、Excelはスケジュールを書くためのもの、Power Pointは弁護士がセミナー資料として作るもの、という使い道しか知らなかったのです。
それが、事業会社では、契約書すらExcelで作ってしまうのです。
なぜかビジネスマンはExcel大好き?
私の乏しい経験で断言するのは詭弁ですが、会社という世界では、管理部門ですら、文書作成にExcelを好んで用いる人が多いように思います。
Excelの場合、A4一枚の定型の書式を作るには、感覚的に操作しやすいからでしょう?
しかし、Excelは、編集画面と印刷したときの出来上がりとが違って、途中で字が切れることがあるので、書面としては落第ではないかと…
Excelのメリットとデメリット
ビジネスマンはなぜExcelを好むのでしょうか。
おそらく、多くのビジネスマンにとって、表計算は必須のリテラシーで、Excelが好きというよりも、Officeソフトの中でもっとも馴染みがあるということなんでしょうね。
メリット
「慣れている」以上のメリットをあげるとしたら、Excelの場合、誰か詳しい人がタームシートのようなシートを作成して、そこに必要事項を記入し、ポチっとしたら雛形に必要事項が反映されて契約書がはいできあがり、という設計が可能なことでしょうか。
「契約書なんてどこに何を書いていいかわからない」というビジネスマンにとっては抵抗も労力も少なく契約書が作れて便利なのかもしれません。
法務としては、内容を読みもしない契約書を締結するな!といいたいですけれども。
デメリット
Excelで作成するデメリットは、なんといっても、修正履歴を残すことができないことです。
厳密には、Excelでも修正履歴を残すことはできますが、Wordのようにはいかず、見づらすぎます。見やすさのために、字の色を変えたり、取消線をつけたりするといった工夫はできますし、実際にやりますけれど、いちいち作業が必要で、超面倒くさい。まるで拷問です。
契約交渉において「修正履歴を残す」というのはマナーだから、これができないExcelで契約書を作ろうなんて、マナー違反でもあります。
それに、ボリュームのある契約書を作成するのは難しいように思われます。
条項を自動で付番することもできず、スペルチェック機能もないから(あるかもしれませんが…)、誤字脱字や修正漏れが発生する可能性も高そうです。
Wordのメリット
法務で知らない方はいないとは思うものの、Wordのメリットにも触れますと、文書作成ソフトだけあって、わかりやすく修正履歴を残せるし、目次や条項を自動でつけることができます。
しかし、いまだに目次のつけ方やインデントの設定、修正履歴の変更の仕方を知らない方は結構います。改ページを使わない(使えない?)方も意外と多いんですよね。
Excelのように、タームシートに必要事項を入力してポチっと、というわけにはいきませんが、Wordでもフォーマットを作って編集箇所を限定することも可能です
ExcelとWordの分かれ目
法務としては、文書は基本的にすべてWordで作ろうという頭が働くのですが、一枚ものの報告書などの場合は、Excelのほうが喜ばれるようです。Excelのほうが、分量にかかわらず、A4ならA4にきれいに収まる感じがするからでしょうか。
たとえば、内部通報の受付シートは、ExcelとWordバージョンの両方を見たことがあります。私としては、そのあとも経過を書いたりする場合は、どんどんページを重ねられるWordのほうがやっぱりいいと思います。Excelだってできなくはないですが。
AIを使ったサービスはWordで
Legal Techということばもすっかり馴染んだ昨年は、AIを使ったサービスもかなり知られるようになりました。私のような地方法務マンですら、自動翻訳サービスなどを試しに使ってみたほどです。
そこで知ったこと。こういったAIを使ったサービスは、Wordでしか受けられないみたいです。先日、ある長文の英文契約書(pdf)の和訳依頼があり、リソースを割けない上、あまり一生懸命読む価値がないものだったので、これはいい試金石と自動翻訳を使うことにしました。しかし、そのサービスはpdfでは受け付けてくれず、Wordに変換してからアップロードするというワンクッションを挟む羽目になりました。
ほかのサービスでも同じようなことがあって、「pdfやExcelでも対応できたらもっと使えるのに」なんていう意見が社内から上がってきたのですが、Wordに対応してくれているだけで十分ありがたい話です。システムなんかもまさにそうだと思うのですが、業務をサービスに合わせていく必要があるのではないでしょうか。
とはいえ、「明日からExcelの契約書は廃止!」なんて、まだまだとてもいえません。