Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

立体商標

私は、知的財産法を専攻して大学院に通っていました。

現職では主要な割合を占める業務ではないので、学問としても実務としても「かじって」いる程度ではありますが、興味を持って注目しています。

KIRINの氷結缶が立体商標

先日、キリン株式会社(以下「KIRIN」)の氷結の缶が立体商標として登録されたというニュースがありました(指定商品は「缶入り酎ハイ」)。

www.ryutsuu.biz

KIRINのリリース

https://www.kirin.co.jp/company/news/2019/0221_06.pdf

 

いったい、どんな商標なのかと思ってJ-PlatPatで見てみると、上のニュースでも出ていますが、こちらのような形状。

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KIRINの立体商標

 

私が「氷結」(KIRINのチューハイ)と聞いて思い描く缶とは似ているけど違う…だって、これで小売店の棚に並んでないでしょう?

 

KIRINのリリースでは、

 

今回の「氷結®」シリーズで使用している「ダイヤカット®缶」の登録は、文字や図形などが表示 されていない包装容器での登録であり、酒類・食品業界において非常に珍しい事例となります。 これは、容器の形状だけで「氷結®」シリーズと認識できるほどに、「氷結®」シリーズおよび「ダイヤ カット®缶」が、お客様にブランドとして高く認知されている証しと言えます。

という、「容器の形だけで消費者に浸透している」と言わんばかりのかなり自信満々なコメントが掲載されていましたが、これにはミソがあるような気がします。

商標は目印

商標というのは、そこに特定の事業者の業務上の信用が化体しているから、それを保護しましょうというシステムです。

だから、特定の事業者の信用が蓄積しうるような商標でなくてはならず、すなわち、「他のと違うとわかる」と自他を識別することができなければ、商標としては機能しません。この自他識別機能、目印となりうることが商標の最も基本的な機能です。目印になれる力を「識別力」呼びます。

目印だからこそ、それで他社品とを見分けて、欲しい商品・サービスを買うことができます。目印にならない、識別力のない商標は、登録を受けられず、保護は受けられません。

誰にとって「目印」であればよいのかーあの缶の需要者って?

商標法1条は、その目的を以下のとおり述べます。

 

この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。

「需要者の利益を保護する」ことが、商標制度の目的の二本柱の片方をなしていて、「目印」は需要者にとって「目印」であることが求められます。

つまり、その商品やサービスを必要とする人、購入する人と取引者にとって目印として機能すれば、商標登録が受けられるというわけ。

「需要者」とは、その商品・サービスの利用者をいい、今回の場合だと「缶入り酎ハイを買って飲む人」がまず該当します。では、缶入り酎ハイを買って飲む人は、この商品名も何もないアルミ缶を「KIRINの缶酎ハイ」の目印と認識できるでしょうか?なかなか難しいラインだと思います。

ところで、商標法上は、「取引者」が広い意味で「需要者」に含まれます。缶入り酎ハイを取引する問屋さんや製缶メーカーが「取引者」に該当しうるでしょう。そして、これが、KIRINの登録のミソだったのではないかと思います。製缶メーカーさんなら、缶を見ればどこの缶かわかりますからね。

事実上、意匠権の半永久化を実現

このような裸のアルミ缶のデザイン(物品の形態)を保護する一般的な方法は、意匠権です。

ただ、意匠権は、新たな創作をした見返りとして一定期間独占することが認められる権利であって、一定期間(登録後20年)経過すれば、産業の発達のために、万人に使用が解放されるルールになっており、商標とは違ってずっと独占するということができません。

しかし、KIRINは今回の方法によって、範囲は缶入り酎ハイと限定的であるものの、事実上、意匠権の半永久化を実現したと評価できます。これは、創作を保護する創作法でありながら、標識法への橋渡しを担うことが期待されると言われる意匠法の最近の動きの先駆けではないでしょうか。