BUSINESS LAW JOURNAL4月号の特集は、非常に興味をそそられるものです。
そのひとつが、「コンパクトM&Aの実務」。
「コンパクトM&A」とは、買収金額数億円未満のものがイメージされています。
特集記事のトップバッターは経営共創基盤の宮下弁護士
特集記事の最初は、経営共創基盤の宮下弁護士による「法務担当者がM&Aの“戦略参謀”となるための5つのポイント」
我が社もそうなのですが、法務は、法務DDが始まろうかという時点で、戦略投資部門がふらっと現れて、「法律事務所を選定してほしい」(時にすでに決まっていることも)、「依頼リストを出してほしい」と言ってきたりします。
しかし、法務の役割はそれにとどまるべきでなく、プロジェクトマネジャーを支える“戦略参謀”としての役割が本来は期待されるはず、とおっしゃる宮下弁護士は、そのためのポイントとして、以下の5つを紹介してくださっています。
・M&Aのプロセスを知り、シナリオを描くことができる
・プロマネから信頼されるパートナーである
・リスクを指摘するだけではなく、リスクをコントロールする
・タイム・マネジメントを行う
・社内外の専門家を交え、適切な論点整理ができる
ーBUSINESS LAW JOURNAL 2019年4月号16頁
記事では、それぞれについて、わかりやすく説明されていて、とりわけそうだと思ったのは、戦略参謀であるためには、法務分野の高い専門性だけ備えて(「I字型スキル」)いても足りず、法務分野以外の社内外の専門家とコミュニケーションをとるために「T字型スキル」、すなわち自身の法務に関する高い専門性に加え、ほかの各分野にも適切な論点整理を行って正しい質問ができる程度のリテラシーを身につけることが必要だというご指摘です。
私がM&Aでなんとかかんとか、法務プラスアルファの価値を発揮できている(と思う)のは、これまでの経験で学んだ税務上の論点や、普段の契約審査業務から得る自社や他社の事業に関する理解があるからと思います。これまで出会ったすべての案件に感謝せねばなりません。
法務パーソンへのオススメ資格 ※法務・知財関連以外
宮下弁護士は、事業・財務・会計・税務といった関連領域の基礎知識を短期間で身につけるためには、資格試験の活用が効率的だと述べられており、
財務分野→証券アナリスト試験、金融業務2級 財務戦略コース
会計分野→日商簿記検定、ビジネス会計検定試験
税務分野→税務会計能力検定
と、具体的に推奨してくださっているのも大変参考になります。
実際、私のチームでは、法務といえども「日商簿記検定2級」は取得することを奨励しています。正直、簿記の知識がどれほど業務に役立っているかは自信がありませんが、簿記を勉強してみて、普段使っている脳みそとは違う部分を使うことを体験し、財務・経理部門とは思考回路が違うんだということを実感することができます。これ自体が、あらゆる部署と協働することが求められる法務部門にとって貴重なトレーニングであるように思います。
ビジネス会計検定試験のほうが「財務諸表を読む力」は養えると思いますので、こちらにもチャレンジして、数字への抵抗感を減らしてほしいとも感じています(私も抵抗感をなくしたい!)。
プロジェクトが終わったら、まとめて共有する
最後に、宮下弁護士から得た示唆は、プロジェクトが終わったら、まとめ資料のようなものを作ってナレッジをみんなで共有しようというご提案。M&A案件は、内密に進められるので、法務部門といえども全員が体験できるわけではない我が社では、ぜひやってみたい取り組みです。
コンパクトM&Aでは、法務DDもスコープを限定して
その他、特集記事では、法務DD、契約、PMIの場面でどう工夫するか、実際どのように工夫されているか、といったテーマがありました。法務DDはスコープを限定する、契約書は簡素化する、といったことが取り上げられています。
弁護士さんは、法務DDのスコープの絞り方として、調査範囲を直近3〜5年にするとか、契約書は上位10〜20社+質的重要契約に絞るとか、そういった提案を述べてらっしゃいましたが、フルDDでもそうではないでしょうか?(私の知る限り、我が社でも、よその会社でも、そうだったような…)
実際なさっている工夫として、コンパクトM&Aなら、リスクの高い労務だけ外出しし、あとは社内で対応するといったこともあるそうです。私の乏しい経験では、労務リスクがない会社に巡り合ったことがないので、根を詰めて調査するというより、「危ないな」ということが確認できる程度の調査でも足りるような気がします。
DAY0〜DAY1でも弁護士にサポートしてほしい
弁護士には、「これまで」よりも、「これから」どのように適法で合理的でシンプルな取引や契約にしていくかで、お力添えいただけたらと思います。とくに、コンパクトM&Aならば、事業規模はさほど大きくないはずで、まだ仕組みを変えることができるのではないでしょうか。
そこまでのフィーを捻出するためにも、法務部門が戦略参謀として、プロマネに取り入っていくことが重要だと考えさせられた特集記事でした。