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大阪で働く法務パーソンのはなし

グループ子会社のハウスキーピング

私の勤め先は、現在、株主総会の準備でややてんやわんやしているのですが、法務では、本体だけでなく、グループ会社のケアも行わねばならず、毎年抜け漏れがないかヒヤヒヤする季節です。

20代の部員が、「なんで、非公開会社の議事録とか書式のサンプルってあまりないんですか!?」と言っていて、本当にそうだよなぁと思ったので、今日はこのことについて書いてみたいと思います。

グループの子会社のケアには手本がない

上場企業ともなれば、国内のグループ会社だけでも2桁あることは珍しくないですが、その管理を皆さんどのように対処されているのでしょうか。そして、何を手本にされているのでしょうか。

私は、新人時代、一番最初にさせてもらった仕事が海外企業の日本法人(非公開会社)の定時株主総会に関する一連の書類作成という仕事で、以来、定時株主総会、役員変更、増資といった手続を野球のノックのように担当させてもらい、基礎力なり「型」なりを身につけることができました。

確かに、登記申請書類の雛形などは、色々と市販されているし、民事局も公開してくれていますが、非公開会社の議事録などとなると、あまりよいものにはお目にかかれません。議事録の書式集は、上場企業対象のものが基本です。株主名簿にいたっては、私が自分で作るもの(=法律事務所時代に作っていたもの)より良いものに出会ったことはありません。

会計監査限定監査役の情報が少ない

非公開会社の議事録で、上場会社を参考にできない大きな点は、監査役に関するものです。というのも、未だに会計監査に権限が制限されている監査役が多く、この監査役には、原則取締役会出席権がないけれども、株主総会では会計に関する議案については、違法性の有無にかかわらず報告をしなければならない義務が課されています。そして、この点について説明し、サンプルを示してくれる市販の書式集は、管見の限りは見当たりません。

ただ、救いは、監査役協会がそういった監査役の監査報告のサンプルを公表してくれていて、監査報告についてはそちらを参考にできます。

グループ子会社の株主名簿には株主の変遷も書いておくべき

まだ議事録はよいのですが、困るのが株主名簿。

もっとも、株主名簿は法定記載事項が決まっていて、株主の氏名と住所、所有株式数、株式取得日を書けばよいので(株券不発行会社の場合)、大して難しくはありません(それが備置できていない会社もありますが…)。

しかし、非公開会社のM&A(株式譲渡)で必ず重点的に見られるのは株式まわりであり、いつカーブアウトするかもしれないグループ子会社の株主名簿には、株主の変遷がわかるような記録をしておくのが望ましいと考えます。なぜならば、「株主の変遷がわかる資料」は、法務DDで重要度の高い要求資料に入っているし、それを後から手探りで追っていくのは非公開会社といえども結構大変だからです。

 

以下のような感じで株主名簿を使って記録しておけば、かなりわかりやすくてよいのではないでしょうか。

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株券不発行会社の株主名簿サンプル

どなたか本を書かれないでしょうか…

そして、大企業のグループ子会社のケアを大量にされているであろう大手法律事務所の弁護士やパラリーガルの方に、「非公開会社のハウスキーピング実務」みたいな本を書いていただけたら嬉しいです。

正解はおろか、指針も見えにくいので、「本にもこう書いてあるからこれでやりましょう」と言えると助かるのです。

国内グループ会社のあるべき姿は【取締役会+監査役】なのか?

しかし、そもそも、国内グループ会社の望ましい機関設計は、【取締役会+監査役】なのでしょうか?

ある程度自立運営できているところはそうかもしれませんが、親会社の経営陣や監査役が名前だけ載せているような取締役会や監査役は、ないほうがよいのではと思います。そういう取締役は、D&O保険にも入れてもらえてないから、万一責任問題になったらどうするのでしょうか。親会社役員を飛び越えて追及を受ける可能性は低いかもしれませんけれども…

取締役会があると、少なくとも四半期ごとに取締役会を開催しないといけないし、代表取締役選定のような取締役会専決事項は株主総会では決められないし、と、実態にそぐわない場面が結構あるのではないでしょうか。

投資家さんにも、効果的で効率的なグループガバナンスを実現するために、ESG投資にあたっては、「形」も「内容」もしっかりチェックいただけたらと思います。