経済産業省の第15回CGS研究会(第2期)の資料が公開され、グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針の案が公表されました。
グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針とは
この指針(「本ガイドライン」)の位置付けは、本ガイドライン案において、以下のように述べられています。
「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下「本ガイドラインという)では、主として単体としての企業経営を念頭に作成されたコーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という)の趣旨を敷衍し、子会社を保有しグループ経営を行う企業(以下「グループ企業」という)においてグループ全体の企業価値向上を図るためのガバナンス(以下「グループガバナンス」という)の在り方をコードと整合性を保ちつつ示すことで、コードを補完するものである。
(「『グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(仮)』の案について」P.5-P.6)
そして、その目的は、「実効的なグループガバナンスの実現に有益と考えられる事項やベストプラクティスを示すこと」だとありました。
本ガイドラインにおいては、グループ設計のあり方や子会社のコントロールをどうするのか、といった論点も取り上げられていますが、「ベストプラクティスを示す」といっても、あるべき姿を一律に示すものではありません。
ただ、グループ企業においては、共通のプラットフォームは構築した方がよいと提言されていました。「それってどんなの?」と聞きたいところですが、さすがに書いてはいませんね。笑
多くのグループ企業では、「関係会社管理規程」みたいなものがあって、こういうことをするときは、親会社の事前承認(それも、取締役会か管理担当部門か)や事前通知・事後報告が必要だ、ということが一応整理されていると思います。本ガイドラインでも、これを作ることが推奨されているように思うのですが、作るのは簡単でも守るのは難しい。
私の勤務先でも、親会社のほうでは規程を持っているけど、子会社側はあまり意識しなそうなので、子会社の職務権限規程に親会社欄を作るといった工夫もしますが、運用に太鼓判を押せるかというと…どうでしょうか。親会社としては、なんでもかんでも報告してほしいのでしょうが、できるだけシンプルにしたいものです。
なお、グループ企業においては、経営理念や価値観の共有が重要だという話も随所にありました。もっともっといってほしいです。
グループガバナンスで法務に期待される役割
本ガイドライン案では、「3つのディフェンスライン」が内部統制システムの構築・運用のための実効的な手段であり、その導入・整備・運用のあり方を検討すべきとされています。
「3つのディフェンスライン」とは、
第1線→業務執行を担当する事業部門
第2線→法務・財務等の専門性を備えつつ、事業部門の支援と監視を担当する事業部門
第3線→内部監査を担当する内部監査部門
から構成されます。法務は第2線というわけです。
第1線においては、コンプライアンス意識の醸成が必要であり、第3線では、事業部門や管理部門から独立して監督を行い、取締役会等に内部統制システムが有効に機能していることの保証を与える役割を担うべきとされています。そのためには、第3線の独立性の確保が必要であり、レポートラインは代表取締役と監査役の二重に設けておくことが提案されています。
では、法務が担う第2線の役割とは?
本ガイドライン案では以下のように記載されています。
管理部門(第2線)は、事業部門(第1線)から独立した立場で、実際に法令順守やリスク管理等が行われているかを評価し、事業部門が行う業務執行に関するリスクテイクの監視・牽制機能を果たす役割を担っている。
(「『グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(仮)』の案について」P.34)
さらに、第1線ではコンプライアンス意識を持って業務執行に当たることが大切というのだから、その教育も、広い意味では法務の役割といえると思います。
法務が役割を果たすためには
本ガイドライン案では、第2線の実効性確保・機能強化のために、以下のことを提案しています。
- 事業部門からの独立
- 親子会社間での「タテ串」のレポートライン整備
- 法務等のリスク管理部門のヘッドを上級役員にする
さらに、第2線、第3線を専門とする人材のキャリアゴールの魅力を高めることが重要とも述べています。
法務には権限が必要
本ガイドライン案でひとつ不満なのは、第2線に牽制機能を果たすために必要な権限を付与すべきだとしっかり書いてくれなかったことです。牽制機能を果たす役割があると書いたのだから、十分だろうということかもしれませんが…
法務に限って言えば、独立性ももちろん重要ですが、きちんと権限を持っていることが重要だと思うのです。第2線の例としてあげられている財務部門は、なにせカネを握っているので、事業部門も財務がNOといえば黙るほかありません。しかし、法務の場合、相談してもしなくても突き進むことが可能なので、必要ならストップをかけられるようになってないといけないし、何より、必要な情報が適時に入ってこなければ、その能力を存分に発揮することができません。
私の勤務先では、法務部門は独立しておらず、問題があると思うこともあるのですが、力のある部門にいるからこそ公式非公式にさまざまな情報に接することができ、今、手当なしに切り離されてしまうと、情報が遮断され、ただの孤立になってしまいます。
以上のとおり、独立性の確保だけではなく、機能を果たすために必要な権限と予算を与えることまで踏み込んで書いて欲しかったのですが、委員の名簿を拝見すると、規模の大きくない企業の想定は難しいのかな…と思った次第です。