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大阪で働く法務パーソンのはなし

代表取締役の変更登記と実印

私が初めて商業登記に携わったのは、15年近く前のことですが、その頃からずっと、「面倒臭いなぁ」と感じていることが、最近再び起きました。

それは、任期満了による唯一の代表取締役の異動です。

グループ会社のうち、依存度が高いというのか、関係が密というのか、そういった子会社の役員は、親会社の従業員が務めることが多いと思います。

そして、親会社の従業員には異動がある。これによって、子会社の役員も変わる。

私の知る限りでは、四半期ベースで子会社の役員変更を行うという会社さんもありました(しかも50社くらい!)。

その異動のタイミングが、任期途中であれば特に問題はないのですが…

取締役・代表取締役の変更登記申請書類

取締役会設置会社代表取締役1名の会社を想定すると、登記申請に必要な書類は、実務的には次のとおりです。

 【必要書類】

  • 株主総会議事録(後任取締役の選任)
  • 取締役会議事録(総会後の代表取締役の選定)
  • 辞任届
  • 就任承諾書
  • 後任代表取締役の印鑑証明書
  • 株主リスト
  • 改印届書

印鑑は何でもよいわけではない

昔習ったところによれば(真偽不明)、代表取締役の変更は、クーデターなどでなく、適式に地位が委譲されたことを証する必要がとりわけあるそうです。

そのため、代表取締役の選定にかかる取締役会議事録においては、原則として出席役員は全員実印で押捺し、登記申請には印鑑証明書を添付する必要があります(商業登記規則61条4項本文)。ただし、これには例外があり、前任の代表取締役が、その取締役会議事録に出席し、登記所に届け出ている会社代表印を押捺していれば、他の出席役員は実印を押印する必要も、印鑑証明書を添付する必要もありません(同項ただし書)。

任期途中で異動がある場合は、前任者に取締役会終結時で辞任いただくことで、例外を使うことがオーソドックスです。子会社役員になるということは、親会社でもそこそこ重役なので、「印鑑証明書とってきてください。実印持ってきてください。」と簡単には言えませんからね。

任期満了退任されると、総会後の取締役会で前任者が不在になる

ところが、任期満了をもって代表取締役が変わると、総会後の取締役会には前任の代表取締役が出席できず、代表印を押捺できないので、原則どおり対応せざるを得ません。面倒臭い…

我が社の場合、グループ会社役員は全員日本人だし、印鑑登録を済ませている人たちばかりでまだいいのですが、外国人だとサイン証明書を取り寄せないといけないし(認証を要しないのがせめてもの救いですが)、若い人なら印鑑登録していないかもしれませんよね。

ちなみに、昔は、一旦定時総会で再任し、後役会終結をもって辞任させるという裏技?を使ったことがあります。

グループ会社の代表取締役の選定方法は柔軟化できないか

グループ会社の役員人事なんて、親会社の一存で決まるわけですから、代表取締役についても、総会前の取締役会で予選しておくとか、株主総会で決議するとかいうことができてもよいのではないかという気がするのですが、代表取締役の予選は不可という解釈は変わっていないと思いますし、取締役会設置会社においては、代表取締役の選定は取締役会の専決事項ですから、総会で決めてしまうこともできません。

「だったら取締役会なんて置かなければいいじゃない」と私は思いますし、法もそう考えているのだと思いますが、長年の日本の慣習は簡単には変えられませんねぇ。

そのうち、「特別支配会社を有する会社については、代表取締役選定は定款の定めにより株主総会決議事項とすることができる」といった法改正があったりして。

登記申請の添付書類の注文が増えていく

ここ数年、商業登記関係の改正が続いていて、一昔前に比べると添付書類が増えたり、注文が多くなったりしています。株主リストや本人確認証明書の添付、さらには代表取締役の辞任届には実印か代表印を押さねばならないなど。

平成27年の商業登記規則改正前は、代表取締役の就任の承諾を証する書面にのみ実印があればよかったのに、改正により、辞めるときにも実印(又は代表印)を押さねばならなくなりました。

このときのパブコメ結果を改めてみると、以下のような記載がありました。

 

(御意見の概要)

辞任の際にも実印の押印や印鑑証明書の提出を求めるのは過剰である。

(御意見に対する考え方)

代表者が知らないうちに辞任の登記がされてしまう事案があり,これを防止する必要があります。また,代表者が辞任する場合には,辞任届に必ず個人の実印による押印とその印鑑の証明書を求めるものではなく,登記所届出印を押印することでもよいこととしているため,申請人側にとって過剰な負担とはならないと考えます。 

 知らない間に登記されちゃうなんて、そんな犯罪行為、しょっちゅう起きているのでしょうか…仮に起きているとして、登記申請書や登記委任状には代表印が押されているはずで、どのみち代表印の無断使用があるわけだから、「辞任届に代表印が押してあればOK」というこの法改正では、法務省の指摘する事案は防止できないのではないかと思うのですが。