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大阪で働く法務パーソンのはなし

販売協力金支払契約書と印紙税

いよいよ大型連休が始まりました。私は数日出勤がありますが、せっかくのお休みですし、新しい時代の始まりなので、この機会に色々と備忘を残しておきたいと思います。今日は印紙税について。

印紙税法は、税務のテリトリーなのか、法務のテリトリーなのか、線引きの難しい分野です。

税法なんだから税理士さんがお詳しいかと思いきや、「ちょっと知ってるというくらいです」と税理士さんに言われてしまう。かといって、弁護士さんに聞いても「税理士さんにお尋ねになっては・・・」という有様。

結局、我が社では、税理士さんと私たち法務でうんうん悩んで、税務署にも見解を聞いて答えを出しています。

「販売協力金」という慣習

私は消費財を扱う会社に勤めておりまして、この業界では、小売店への納入数量等に応じてメーカー側が「販売協力金」や「販売奨励金」なる金銭を支払う慣習があります。その額や支払の条件などは、前年実績を踏まえるなど諸般の事情を考慮し、定期的に協議して書面に落とし込みます。この書面を本記事では「販売協力金支払契約書」と呼ぶことにします。

販売協力金支払契約書は課税文書か

販売協力金支払契約書は、課税文書ではないと信じてきました。なぜなら、印紙税実用便覧に次の記載があるから。

割戻金等の計算方法やその支払方法を定める契約書は、変更又は補充契約書として、例えば、請負についてのものは第2号文書(請負に関する契約書)として現契約の内容に従って課税文書として取り扱われる。なお、物品売買についてのものは、平成元年3月31日までは、物品の譲渡に関する契約書(第19号文書)として課税されていたが、平成元年4月1日以降作成されるものから課税が廃止された。

(注)継続する取引に関して、基本契約書(第7号文書)の補充又は変更契約書として、割戻金支払いに関する契約書を作成した場合であっても、割戻金に関する事項は、第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)の重要事項に該当しないため、同号に掲げる文書には該当しない。

ー『印紙税実用便覧 平成30年8月改訂』282頁

割戻金(=販売協力金)は、事実上は値引きだし、「1本あたり●円」という決め方をすれば、正に単価の変更ではないかという気もして、何回読んでも完全には腹落ちしないのですが、とにかく売買契約なら課税文書ではないのです。

逆に言えば、売買契約でない、たとえば請負契約の場合なら課税文書になるので、製造委託契約(製作物供給契約)の場合はどう考えればよいのか…と頭を抱えたくなりますが、それは措いておいて。

帳合会社を挟んだら「売買契約」に基づかない?

私の中では結論が出ているこの問題に、お取引先(小売店)から、新たなご指摘を頂戴しました。それは「当社(小売店)との間で締結した販売協力金支払契約書は、売買契約に基づくものではないから、課税文書(第7号文書)である」と。

このお取引先の取引には帳合会社が入っており、なるほど確かに直接の売買はお取引先との間にはありません。でも、「売買関係がないこと」は販売協力金支払契約書では明らかではないし、仮に「単価」や「対価の支払方法」を決めているとしても、だからといって直ちに売買契約に当たるはずはないと思うのですが…しかも、お取引先は、「帳合会社が入っていることが書面上明らかになっていれば、課税文書にはならない」とおっしゃる。本当かー。

私たちは、顧問の税理士とも相談して、「課税文書ではない」と結論を出しているのですが、仮にお取引先のご指摘が正しく、同じ見解を複数の税務署がとるようであれば、恐ろしいことです。販売協力金は、毎年、しかも、かなりの数の小売店さんと締結するので、それぞれに4,000円の印紙税がかかってくるなんて、耐えられません。

印紙税で頭を抱えないためには電子契約!

課税文書は1号から20号までしかないけれど、その解釈は難しいところがあり、悩むことが多いです。そして、悩むくらいなら課税文書に該当するという安全な判断になりがちです。

印紙税に悩まないためには、電子契約を導入すればよいと思うのですが、先日も書いたとおり、そのインセンティブを働かせることは、かなりハードルが高い。ハンコはろくに見ずに押してくれるのに、自分宛のメールで承認するのはちょっと怖いらしい。部下としては、メールを見落とすのではないかという不安も。笑

そして、私は密かに、そのうち「●●契約税」とかいって電子契約にも課税されるのではないかと心配しています。スマートコントラクトが実現すれば、課税漏れも防げそうですしね。