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大阪で働く法務パーソンのはなし

グループの産業財産権管理

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このたび、新たに事業ドメインを広げるにあたって会社を設立しました。

その事業ドメインで生じる産業財産権をどのように保有・管理していくかを検討しなければならないのですが、他社さんはどのようになさっているのでしょうか。

あるべき姿は2通り考えられるようなのですが、どちらを採用したものか、私自身は結論を出せていません。

あるべき姿①:(完全)一元管理

以前に、特許事務所にご相談した際、管理方法は2通り考えられると教えていただきました。ひとつは一元管理、もうひとつは各社管理です。

一元管理のメリットは、なんといっても効率性です。各権利の存続期間やライセンス状況を1箇所で把握できるなんて、かなり理想的です。特許事務所もある程度集約できれば、コストダウンにもなります。また、他のグループ会社の商標が先行商標としてあがってきて、登録に支障を来たすといった不都合も起こりません。

一方、デメリットもいくつか考えられて、まず、グループ会社に使用させるのであれば、ライセンス契約を締結し、適正なライセンス料を得る必要があります。特に移転価格の問題から、海外グループ会社へのライセンスについては気を揉みます。海外ではその登録商標に最初から価値があるのではなく、ブランドを育てているのは現地法人だというケースもあり、ライセンス料をとるのはいかがなものかという考えも可能ですしね。

また、将来、グループ会社をカーブアウトするときに、どの権利を一緒に切り出すのか検討しなければなりませんし、価値評価が必要なこともありそうです。想像するだけでもぞっとする作業です。

ほかにも、特許の場合、子会社(か発明者)から特許を受ける権利を譲り受けなければなりませんが、共同研究の場合には共同研究機関から承諾を得ないといけないし、子会社への許諾も共同でしなければならず、結構手間です。

こちらのスタイルを採用されている会社さんには、パナソニックさん(パナソニックIPマネジメント)や任天堂さんなどがあるようです。

あるべき姿②:各社管理(グループ共通のものは最終親会社で保有

もうひとつのアイデアは、各社で必要なものを保有し、管理する方法。

こちらだと、先ほど書いたデメリットは解消できますが、一元管理はできないので、いったい誰がどんな権利を持ち、活用しているのか把握できません。

また、国によっては、グループ会社の商標がネックになって登録が妨げられるおそれがありますし、商標でよくやる「識別力の強い商標(ハウスマークなど)+識別力の弱い商標」の出願はしにくい(こういう場合は親会社で対応するケースが多いようです。)。

それに、ハウスマークについては親会社が持っているので、これはライセンス料の支払が必要ということになるように思われ、こちらもデメリットや手間はそれなりにあります。

こちらのスタイルは、アサヒグループさんなどが採用されているようです。

M&Aで取得した企業の場合は、こちらにならざるを得ないですね。PMIでお金をかけて移転させることも考えられますが…

現実解は、各社管理か?任せるならウォッチが必要

我が社もM&Aで獲得した事業が複数あり、②に近いです。

一部、ハウスマークや中核ブランドなど、日本(中核事業会社)から海外に輸出するようなものについては最終親会社に帰属させ、独立した事業や現地品の商標については子会社に帰属させている状態です。

海外の現地法人でのみ販売されるような商品についてまで、商標登録を日本でコントロールするのは、コスト的にも非効率なので、これは現地に裁量を与えるという発想です。他方、グループのハウスマークや日本で使用しているブランド名は最終親会社がコントロールし、ライセンス料も徴収しています。

この方法は、いつカーブアウトすることになっても比較的スムーズに切り出すことができるし、現地にも一定の裁量があり、もっとも現実的な対応かなとは思っていますが、この方法を取り続けるなら、各拠点がどのように発明の発掘を行っているのか、権利化の判断をしているのか、権利を適切に管理をしているのか、といったことをウォッチしていく必要があるという課題があります。

そんなわけで、各社管理にしているけれども、まだまだ試行錯誤段階です。