Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

品質表示語と商標

先週は、司法試験や弁理士試験の短答試験がありました。

近年は民法や知的財産法分野で大きな改正があり、受験生のみなさんは大変ですね。

知的財産法は改正が頻繁な分野ですが、今のところ法改正では対応できない、実務上厄介な問題があります。

商標の登録には識別力が必須、かつ早い者勝ち

商標は目印なので、他との識別が可能でなければなりません。この「自他商品役務識別機能」が商標の最も基本的な役割です。識別力を有さない商標は、登録されません。 

一方、商標登録は先願主義であり、早い者勝ちで、一度登録されれば、半永久的に維持することが可能です。その後、識別力を喪失したからといって、登録が失効することは(今のところ)ありません。

品質表示語の登録のオンパレード

いわゆる品質表示語(商品・役務の品質、効能、用途等を表す語)は、識別力がないので、原則として登録されることはありません(例外は、使用による識別力の獲得)。

というのが教科書的なお話ですが、実際には「これは品質表示語だろう」と思えてならないものが多数登録されています。これは、登録査定時には、その語が指定商品・指定役務に対して品質表示語とはされなかったということです。

一度登録されてしまうと、識別力の喪失を理由としては登録が取り消されることはないので、その語がのちに品質表示語と認識されるようになっても、登録自体は存続します。

権利侵害は制限されるというものの(商標法26条1項)、そんな登録がされていると、同じ言葉を使いたい人はより安全に使用しようとして、出願するようになります。そして、こんなことが起きます。

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「プレミアム」を含む商標は100件近く登録されている(指定商品「清涼飲料」)

すでに登録済の品質表示語を使いたいときは

当社では、法務で商標の相談も受けるので、新商品のネーミングやコピーで「こういうのを使いたいけれど、すでに商標登録がある。どうしたらいいか?」という相談がわりと頻繁にあります。

本当は「堂々と使えばよい」と回答したいところですが、業界のリーディングカンパニーでもない我が社ではそこまで大胆なことはできません。そうすると、とりうる選択肢は、

  • ネーミングを変える
  • デザインを変える
  • 権利者からライセンスを受ける
  • ほかの要素を加えて出願する

のいずれかになります。「デザインを変える」というのは、商標的使用と言われない態様(ただの説明ですよ〜という感じ)にするということです。

開発チームがそれが最もよいと考えて創ったデザインなりネーミングなので、「変えなさい」というのは酷な話であり、ライセンスを受けるか出願するかが現実的な解決策です。ただし、権利者は競合他社のことが多く、つまり、出願することが多くなります。正直、これをやめたい。出願が増えるだけだし、他人が登録商標をお使いになってもケチをつける気持ちもないですから。ただ安心して使いたいために、いらない権利を取りに行くというのはなんとも言いようがありません。

化粧品業界では、品質表示語と思われる語の出願があった場合、業界団体が異議申立てをされているという記事を昔読んだことがあります。我が業界も倣ってくれたらいいのですが…