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大阪で働く法務パーソンのはなし

「瑕疵」は「契約不適合」にすべきか

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ついに見直しに着手した契約書のひな型。

まずは、取引基本契約書から手をつけることとしたのですが、結局のところ要見直しポイントは、連帯保証があればそれと、瑕疵担保責任の書き方をどうするかに収斂するように感じています。

改正ポイントは数あれど

民法改正による変更点には、時効、債権譲渡禁止特約の効力制限、法定利率の見直しなど数多ありますが、本来は契約自由の原則が働くので、契約で自由に決めればよく、すでにそうしていることが多いです。

(もっとも、我が社の場合、遅延損害金の利率は定めていなかったので、計算のしやすさのため、約定利率を設けることにしました。利息計算したことないですけれど…)

売主の瑕疵担保責任債務不履行の一類型に

改正民法では、売主は種類、品質及び数量に関して契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うと整理され、引き渡された目的物が契約の内容に適合しないときには、買主は、救済手段として、一般的な債務不履行の救済手段である損害賠償請求や法定解除に加えて、追完請求又は代金減額請求をすることができる整理になりました(新法562条、563条)。

「契約の内容に適合した」目的物ってどんなもの?という疑問が浮かぶわけですが、その疑義をなくすべく、契約書において、目的物がどんな目的のために買主に購入されるのかを明記しておくのが望ましいとする文献も複数あります。確かに、「一般消費者に販売する●の原材料として本商品を購入する」といったことが書いてあれば、最終製品が口に入るものであれば求められる水準は自ずと決まるのではないか?という見方もできそうです。ただ、いちいち書くのは億劫ですね。一取引先から購入する商品の用途が必ずしも一つとは限りませんし、当事者間ではその目的物がどんな目的のために購入されるのかはわかるでしょう、という説明も成り立ちそうです。

この問題は、結局、個別に仕様書なり規格書なりを事前に合意し、これを満たす目的物を引き渡すことを売主に品質保証いただき、品質保証違反=債務不履行(契約不適合)という整理にするのが合理的なのかなと考えました。

「瑕疵」でもいいけれど

契約法務における民法改正の目玉?は、「瑕疵担保責任」の「契約不適合」への用語の変更ではないでしょうか。

民法改正対応を謳う契約書関連の書式の中には、「瑕疵」のままにするものもありますが、一問一答によれば、「瑕疵」を「契約の内容に適合しない」と改めたのは、以下のような理由だそうです。

 

旧法第570条は「瑕疵」という用語を用いているが、判例最判平成22年6月1日、最判平成25年3月22日)は、その実質的な意味を「契約の内容に適合しないこと」であると解釈していた。そのため、目的物に多少のキズなどがあっても契約の内容に適合する限り「瑕疵」ではないと扱われるが、「瑕疵」という用語を用いると、目的物に客観的にキズがあれば契約の内容と適合するかどうかにかかわらず売主が担保責任を負うとの誤解を招くおそれがある。そこで、新法では、「契約の内容に適合しない」との用語を用いて、端的に、「瑕疵」の具体的な意味内容を表すこととしている。

筒井=村松編「一問一答 民法(債権関係)改正」275頁(商事法務、2018年)

この説明からすると、「瑕疵」よりも「契約不適合」のほうが狭い意味のようにも思われますが、少なくとも立案担当者は、わかりやすさのために用語を変えるけれども、改正前後で「瑕疵」や「契約不適合」が示す範囲は変わらないと考えているようです。

ということもあり、顧問弁護士との議論では、用語変更はマストではなかろう、という結論に至ったのですが、いかんせん契約は相手があってのこと。最終的には、民法改正を踏まえているという意思表明のために、ひな型では「瑕疵」を「契約不適合」に改めることにしました。

契約不適合責任の追及方法

契約不適合があった場合には、民法上は、損賠請求や契約解除に加えて、追完請求や代金減額請求ができますし、買主に不相当な負担を課すものでない限り、売主が追完方法を選択することも可能です。原則では、買主は代金減額請求に先立って追完請求をすることになっていますが、これは任意規定

したがって、目的物にもよりますが、売主としては原則を貫き、まずは追完請求してもらい、かつ、売主による追完方法の変更権を留保しておくことが考えられ、買主としては、減額請求を追完請求と選択的に行えるようにするとともに(もちろん損賠請求や契約解除も)、売主に追完方法の変更権を与えないようにすることが考えられます。

という、教科書的教えに従い、ひとまずのひな型はこの方法でいくことにします。

次は、保証の見直しです。こちらのほうが難儀です。