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大阪で働く法務パーソンのはなし

保証条項の見直し

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先日、チームのメンバーが債権法改正関連のセミナーに行ったら、講師には「モタモタしててはいけません!もう来年春に迫ってますよ!」と叱咤され、知り合いの他社さんからは「事業部のヒアリングが終わって、チェックリストも作って…」と周回遅れを痛感させられたと言って帰ってきました。

我が社はヒアリングなんてしてないけれど、改正対応版の取引基本契約書の作成には鋭意とりかかっているし、チーム内では一通り勉強して、要見直しポイントを確認してるのだから、さほど周回遅れでもない、と自分にいいきかせているのですが…

さて、民法改正の重要な変更点のひとつ、保証。

とりわけ、個人根保証の扱いをどうするか、頭を悩ませています。

個人根保証には極度額の定めが必須

改正により、個人に根保証をしてもらう場合には、極度額の定めが必要になりました。我が社では、中小企業に商品をおろすこともあり、長年の習慣で代表者個人に連帯保証をしてもらってるケースがあり、この見直しが必要です。

さらに、情報提供義務も新設され、主債務者は収支状況などについて保証人に情報提供する義務があり(改正民法465条の10)、債権者は、保証人の求めに応じて履行状況に関する情報を提供したり(同458条の2)、期限の利益を喪失した場合に通知義務があったり(同458条の3)します。

改正法では、主債務者や債権者の義務がかなり詳細に明記されており、極度額を除けばわざわざ詳細に書かなくてもよいのでは?という見方もありそうですが、主債務者が保証してもらうにあたって自己の収支状況などについてきちんと情報提供し、保証人がこれを確認したことについては、契約書上でも確認することを推奨している文献が多いです。また、そのほかの情報提供義務を含め、民法の定めをそのまま確認的に書くことを勧める文献もあります。私も確認的に記載するほうに賛成です。というのも、保証条項を発動させたいときは、おそらく一刻を争っているので、関係者に民法を説くよりも、「契約書にこう書いてますよ!」と説明できたほうが簡便と考えるからです。主流はどうなっていくでしょうか…

旧法に基づく極度額なしの根保証はこれからも有効?

個人根保証のルールが変わり、極度額の定めのないものは無効です(改正民法465条の2第2項)。では、現在すでにいただいている連帯保証は、極度額を定めた上で、改めて取り直さなければならないか。

結論は「原則否」と考えてよさそうです。

「連帯保証人は、乙(買主)が甲(売主)に対して本契約に基づき現在および将来負担する一切の債務について、次条による更新後の乙の債務も含め、乙と連帯して保証する。」という条項があった場合、

 

自動更新が行われた後の乙の債務も含めて連帯保証の対象とすることが明示されており、自動更新に際して改めて保証の意思表示が行われる結果として更新後の債務が連帯保証の対象となるものではない。そうすると、更新後の乙の債務を保証する保証契約は当初の売買取引基本契約締結時点で既に成立しており、その時点が施行日前である以上、更新後も引き続き甲と連帯保証人との間の保証契約関係には現行法が適用されると解してよいであろう。(略)更新拒絶の意思表示の主体は売主と買主に限定され、保証人はそこに含まれていない。このような場合に、基本契約の自動更新時に保証人が更新に向けた意思を不作為によって表したとは評価しがたく、自動更新に伴って保証合意が改めて行われたと見る基礎が欠ける。この点でも(略)連帯保証が改正民法の適用を受けるとは解されないであろう。

ー青山=岡成「[特集]民法(債権法)改正を踏まえた契約ひな形の見直し 売買取引基本契約」ビジネスロージャーナル2019年5月号22頁

ということだそうです。

確かに、契約更新は売主と買主の間でのみ決定され、保証人には口を挟む余地がないので、更新があったからといって、改正民法に服することを承諾したとは評価しにくいですね。だからといって、改正法施行後も旧規定を放置し、いざというときに莫大な責任を負わせるのは、改正法の趣旨に反して無効になる可能性もあると上記の記事では忠告がありましたので、結局のところ、どこかのタイミングで連帯保証は取り直す必要があるのだろうと考えています。

そもそも、(金融機関じゃあるまいし)個人根保証を取る必要性って本当にあるのかな…というところから見直しが必要でしょうね。

身元保証も極度額が必須

我が社がとっている個人根保証は、売掛金に限りません。

従業員の採用時には、身元保証書を提出させています。これについても、この機会に十分な見直しが必要だと感じていますので、次回に。