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大阪で働く法務パーソンのはなし

身元保証書は何のため?

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我が社では、採用時に身元保証書を提出してもらっています。

内容は、①入社者が社内規定等を遵守して業務にあたることを保証する、②入社者が万一会社に損害を与えた場合、連帯して損害を賠償する、ということ。この身元保証契約も、個人根保証にあたりますので、来年春の新入社員からは、極度額を明示しなければ無効になってしまいます。

身元保証書はまだまだ健在らしい

「身元」を保証するなど、昭和な香りがプンプンしますが、業界に限らず、まだまだ健在の慣行のようで、特に我が社が珍しいということもないようです(減少傾向にあるそうですが、真偽不明)。

では、実際にはどれくらい活用されているかというと、どうでしょうか。少なくとも我が社では、身元保証人に賠償請求をしたことはありませんし、正直なところ、身元保証書を取る目的は、賠償請求先を確保することではありません。「社会人になるのだぞ」という自覚を本人に与え、かつ、確かな連絡先を確保することにあると聞いています。そのために、代書を防ぎ、身元保証人本人の意思を確認すべく、身元保証人には、ご署名に加えて実印を押捺させ、印鑑証明書の添付も求めているのですが、これは念を入れすぎではないかと…

身元保証書を提出できないと採用取消し?

身元保証書の提出を採用条件としたり、提出を拒んだことを理由として解雇したりすることは可能でしょうか。前者は、採用の自由があるので可能であると考えられます。後者はやりすぎではないか?と思うのですが、就業規則に根拠があることを理由に解雇を認めた裁判例が知られています。

しかし、実際には、身元保証書を提出できない事情を持つ人もあり、我が社の場合は、事情を聞いた上で免除することもあるようです。「だったら、全員いらないじゃん」と思うのですが。。

今後、極度額を書かなければならないなら、その額次第では、身元保証人のなり手を用意できないのではないか、あるいは、いたずらに身元保証人の不安を煽るだけではないか、そんな思いが膨らむばかりです。

来年に備えて、身元保証書の目的を見直すべし

ともあれ、このままでは来年以降、身元保証書を取る意味がなくなってしまうので、どうするか考えなければなりません。まずは、この紙っぺらの目的をきちんと考えるところから始める必要があります。

もし、入社者本人の自覚を促すとともに、確かな連絡先を確保することを目的にするのであれば、「身元保証書」から「確認書」にでも名称を変更し、「本人の入社にあたり、本人が社内規定を遵守し、誠実に業務を遂行することをお約束いたします。」程度の内容にして、保証人の連絡先を書いてもらう程度にして、実印も印鑑証明書も求めないとするのが妥当と考えられます。

一方、やはり損害賠償責任も連帯して負ってもらうのであれば、現行の保証書の内容に極度額を加えることとし、身元保証人の意思確認を担保するために、印鑑証明書の提出を求めることも妥当だろうと思われます。なお、極度額の相場はまだないと思いますが、ある弁護士さんとお話したときには、「1億円じゃ身元保証人は引くだろうし、100万円じゃ意味ないですよねぇ」とおっしゃっていました。1,000万円でも引きます。

本人に賠償請求するような事案は、横領などの不祥事と想定されます。不祥事が起きるのは、内部統制システムに欠陥があるからのはずで、会社に重過失があり、身元保証人に請求するのはお門違いに思えますけれど、身元保証という慣習はまだまだ続くのでしょうか…