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大阪で働く法務パーソンのはなし

特許庁のユーザー評価調査

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先日、特許庁から連絡があり、商標審査のユーザー評価調査の協力依頼を受けました。国でありながら、ユーザーの意見を聞いて改善に取り組もうとする姿勢は素晴らしいと思います。

調査自体は毎年実施されますが、調査対象者は出願数上位者から選定されるらしく、当落線?上の我が社は、数年ぶりにお声がかかりました。

特別のクレームはないのですが、せっかくなので、忌憚のない意見を送ることにしました。端的には、審査をもっと厳しくしてほしいです。

ユーザー評価調査とは

平成30年度商標審査の質に関するユーザー評価調査報告書によれば、この調査の目的は以下のとおりです。他にも、特許や意匠でも調査が行われています。

 

本調査は、商標審査の質について、ユーザーの皆様からの評価、意見等を収集し、商標審査の質の現状を把握するためのデータとして活用すると共に、今後の商標審査の質の改善に役立たせることを目的としていま
す。

ー平成30年度商標審査の質に関するユーザー評価調査報告書3頁

調査内容は大きく2種類あり、ひとつは、審査の質全般に関するもの、もうひとつは、特定の審査の質に関するものです。特定の審査の質のほうは、拒絶査定になった出願に関して行われるようです。評価は、基本的には5段階評価で、自由記入欄も用意されています。

平成30年度の報告書では、商標審査の質に対する全体的な満足度は、以下のとおりでした。

  • 満足:8.0%
  • 比較的満足:39.7%
  • 普通:45.3%
  • 比較的不満:6.7%
  • 不満:0.3%

審査官に不満があるわけではないのですが、私は「比較的不満」です。

その理由は、特許庁も重点課題と認める「識別性の判断」が大きいです。諸外国と比べて緩すぎませんかね…自由記入欄にもコメントされていたそうですが、識別性の判断が緩くなると、品質表示的に同じようなものを使いたいときに、侵害と言われないためにこちらも出願しなければなりません。結果、出願数が増え、ファーストアクションまでの期間が延びるという悪循環を生んでいると思うのですが…

商標五庁で最高の質を目指す

特許庁は、商標五庁の中でもっとも優れた審査品質を備えることを目標にしているということで、「他の機関と比べて審査の質等はどうか?」というアグレッシブな質問をされます。国が、他の国のサービスレベルとの比較を求めるって、なんだかすごく不思議な気分になります。とてもよいことですが。

我が社は、出願国に偏りがあって、商標五庁の中では中国のことしかほとんどわからないのですが、中国の審査は結構厳しいという印象を持っています。識別性の判断も類否の判断も。それに、指定商品・指定役務も結構細かくて、「××じゃないとダメです」と代理人によく言われます。。類否の判断が厳しいのはちょっと困るのですが、識別性の判断が厳しいことはとてもよいことだと思っており、「特許庁より優れている」と回答しました。厳しすぎて予測可能性がつかないから、「優れている」といっても良いかは難しいところですが…

拒絶査定をくらった出願についてご意見を

冒頭のとおり、全体的な質に関する調査に加えて、特定の出願の審査についても質問されるのですが、その特定の出願は特許庁から指定されます。我が社では、3条1項3号(識別力なし)と4条1項16号(品質誤認)に該当して拒絶査定となった出願が指定されました。こちらは、担当審査官にも直接フィードバックされるそうです。

もともと登録を確信していたわけではなかったので、拒絶査定が出たこと自体は「そうか」程度でしたが、拒絶理由に4条1項16号が挙げられていたことは意外でした。その商標は、ある食品を指定商品にして「コク」という言葉を含んでいたのですが、拒絶理由通知には、「コクのない指定商品に本願商標を用いた場合は、品質誤認を生じるおそれがある」というようなことが書いてあって、ひっくり返ってしまいました。有名なところでは、指定商品「キムチ」で「こくうま」が登録されていますし、同様に「ビール」でも「こくうま」が登録されているのにです。

「コクも旨味もないキムチ」「コクも旨味もないビール」に使用したら品質誤認になるはずですが…また、もし品質誤認を生じるおそれがあるのだとしたら、4条1項16号は、後発的無効理由でもあるから、今からでも無効にできるのか?と、特許庁を問い詰めたい気持ちになった出願でしたので、よくぞ聞いてくれたと内心感謝し、「本願が4条1項16号に該当するなら、他の出願も同様に厳格に審査してほしい」というような趣旨の意見を提出しました。

「コク」や「旨味」の有無など、極めて主観的なので、品質誤認を生じるおそれがあるか疑問ですし、「コクと旨味のあるキムチ」という指定商品ならよいのか?という気持ちにもなります(おそらく識別力を欠いてダメですね)。

 

特許庁の審査には、識別力の判断が緩いという点を除いては特に不満もないのですが、審査が長期化している点はいただけないと感じています。しかし、それは、出願数の増加に起因していると思われるので、私たちも出願数を減らし、本当に必要なもの、自他識別機能を果たしうる商標についてのみ出願するようにしなければならないのではないでしょうか。