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大阪で働く法務パーソンのはなし

利益相反取引とか特別利害関係とか

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CGコードやESGだとかが関係あるのかわかりませんが、この数年で取締役会運営に関する議論が活発になっている気がします。

その規律については、会社法施行以来基本的な変更はないし、会社法施行前後でも大きな変更はなかったように記憶していますが、事業の多角化や(企業不祥事による)裁判例の積み重ね、社会の変化などにより、運用面では複雑になっています。

私個人としては、最近、利益相反取引と特別利害関係に頭を悩ませています。

利益相反取引は外形的に判断するのが実務的

先日、あるセミナーで、「つぶれるかもしれない子会社への金融支援は、親子の双方にとって利益相反取引だ」というお話がありました。このフレーズだけだと全く腹落ちしかねたので、真意を確認すると、

  • 完全親子間なら利益相反取引は考えなくてよい
  • 親会社の取締役が子会社の代表者や業務執行取締役でなければ親会社側で利益相反取引の承認は不要
  • 「つぶれるかもしれない(=親会社に損失を与えるかもしれない)」のに支援をすることは、重要な業務執行で取締役会の専決事項
  • 利益相反取引でなくても、特別利害関係があるというべきケースは多い

ということでした。つまり、規範としてはこれまでと特に変わることはなく、利益相反取引は外形的(代表者は誰か)に判断するのが実務上は原則に思われます。

(余談ですが、最近、法務の世界もお客さんの取り合いがあるのか、セミナーでは、正確さを多少犠牲にして刺激的にお話になる方もある気が…)

つぶれるかもしれない完全子会社への支援になぜ取締役会決議が必要なのか

前述のとおり、完全親子間でそのような支援をすることは、利益相反取引には当たらないけど、取締役会決議は必要とされるようです。その理由は、当該取引は、見方によっては寄付などといわれるおそれもあり、合理性が(当然に)強く疑われるから。

取引実行のジャッジは重要事項であり、取締役会の専決事項であって、取締役会決議を欠く場合、それだけで手続違反として取締役の責任を追及しうるとのことでした。経営判断原則を適用するため以外にも理由があるということですね。

完全親子でない場合には、親会社と少数株主間で利益相反が考えられるので、子会社側では慎重な判断が必要です。とにかく大切なことは、「自社にとってこの取引は有益である」ということが第三者にも合理的に説明がつくものであるか、そして、それが記録として残されているか、ということに尽きます。(我ながら、ちょっと嫌な汗が出ます…)

利益相反取引と特別利害関係の有無は別

利益相反に似て非なるものとして、特別利害関係という概念(会社法369条2項)があります。決議の公正を期すため、特別の利害関係を有する取締役は、議決への参加も議長を務めることも許されていません。

冒頭のセミナーの続きで、「完全親子会社間で利益相反がないとしても、役員兼任がある場合には、特別利害関係があるものと扱うべき場合が多い」とある著名な弁護士に言われました。

利益相反取引が基本的には外形的に判断できるものである一方で、特別利害関係のほうは得体が知れなくて、広く取ろうと思えばいかようにも広く取れます。

「特別利害関係があるものと扱うべき場合が多い」って何!?と思い、そんなのいちいち判断できないから、「兼任がある会社との取引については、すべて特別利害関係があるものと扱う」というルールにすることはアリでしょうか?とお尋ねしたところ、「アリ」というご回答でした。この数年で、運用がものすごく変わっているのだなぁと実感したのですが、みなさんそんなことされているのでしょうか?

(我が社では、弁護士が2名、社外役員を務めていますが、利益相反だとか特別利害関係だという指摘を受けたことは一度もないのですけれど…)

社外取締役が議長を務める合理性が見えた気がする

昨今の風潮を踏襲すれば、たくさんのグループ会社を持つ会社の取締役会で上程される議案のほとんどは、誰かしら特別利害関係を有することになるのではないでしょうか…

にわかに出現し始めている、「取締役会議長は社外取締役」という会社さんの合理性は、ここにあるのかと妙に納得できてしまいました。すなわち、特別利害関係取締役は、議決に参加できないことはおろか、議長を務めることもできない(決議が無効になる)とされているので、社内役員に任せると、都度議長交代が必要になり、会議運営にも議事録作成にも手間がかかってしまうので、最初から議長は社外取締役に任せたほうがよいという判断ではないかと。

すると、「議長は社外取締役」がスタンダードになっていくのでしょうか。