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大阪で働く法務パーソンのはなし

「反社チェック」はどうするの?

週末の芸人さんたちの記者会見は驚きでした。本日会社側の記者会見があるそうで、どうなっていくのか、部外者の私まで不安な気持ちになります。

社外役員の存在意義は?

吉本興業(ホールディングス)は、10年前にMBOによりデリストしていますが、現在もなお多くの社外役員を擁していて、その中にはコンプライアンスや不祥事対応で高名な事務所に所属されている弁護士の方も複数いらっしゃるように見受けます。もし、すべての事実がこうした方々の耳に届いていれば、どうなっていたでしょうか。まさか、耳に届いていたけれど傍観していたということはないと思いますので…

芸人さんたちの主張が事実とすれば、結局、いくら立派な社外役員をそろえても、その方達は現場を知ることなどできない。だとすれば、社外役員によるガバナンス強化って何なのか?社外役員の存在意義とは何なのか?と思ってしまいます。

もし、私の勤務先で、社員が同じように会社に見切りをつけて社外に告発するようなことがあったら、私はどう振る舞えるか?と考えてしまいました。

反社会的勢力とはだれか

今回の事の発端は、特殊詐欺グループの宴会に、(ギャラをもらって)出席していたことが公になったことでした。もっとも、その特殊詐欺グループが摘発されるのは、宴会にでた後のことでしたし、加えて、そのフロント企業は、会社のスポンサーも務めていたと報道されています(記者会見も同旨)。

反社会的勢力との関係断絶など、普通の企業であればどこも目指していることですが、実際にはそう簡単ではありません。なぜなら、今、取引関係に入ろうとしている相手が反社会的勢力であるのかどうか、調べるのが極めて困難だからです。

そもそも、「反社会的勢力」の定義は、契約書上では「暴力団暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団」という法務省の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を引用することが多いです。しかし、今回のような特殊詐欺グループや半グレ集団はこれに当たるのかよくわからないですよね。契約関係に入った後で、こういった人たちと判明した場合、暴排条項に基づく契約解除は有効なのでしょうか。もちろん、反社会的な勢力であることに疑いはないのですが。

反社チェックは容易でない

契約関係に入る前に素性がわかれば、定義にあてはまるかどうかを考えずに関係をお断りすることができますが、これはなかなか困難です。

まず、暴力団関係者であるかどうかは、一昔前は警察署が教えてくれたそうですが、最近は警察署も教えてくれないと聞いたことがあります。暴力追放運動推進センターに相談すれば教えてくれると聞いたこともありますが、私自身は相談した経験はありません。

ただ、会社としては、我が社の事業領域でも暴力団フロント企業が資金稼ぎをしているので、暴排条項をしっかり入れるように、という要請を警察から受けたことがあります(すでに大抵の契約書には入っていましたけれど…)。

以前に勤めた会社は、取引先数が知れているということと、不動産取引があったことから、入念に反社チェックをするところで、時には興信所にお願いして調査をすることもありました。これがたまに、「この人は反社会的勢力の関係者だ」という報告が入ることもあり、反社会的勢力は、一般人が接触可能な人の中にいるのだと驚きをもって報告を聞いていました。のちに反社会的勢力と判明するリスクを考えれば、興信所に依頼することも安いものかも知れませんが、取引先候補のすべてにこのチェックをかけるのは不経済です。

答えは同じはずだし、みなが知りたい公の利益になる情報なのだから、聞けばすぐに教えてもらえるような公的機関があればよいのですけれども、個人情報の問題などもあって、なかなか難しいようです。結局「反社会的勢力を排除しなければならないけど、誰がそうかは犯罪が起きるまでわからない」という状況はこれからも変わることがなさそうですね。どうしたらいいの。