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大阪で働く法務パーソンのはなし

役務提供と下請取引

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毎年7月あたりは、公正取引委員会中小企業庁が下請調査を実施する時期です。

私の勤務先は毎年書面調査の対象となっており、法務だけでは回答できない内容なので、関係者が直近1年の取引について振り返るよい機会ともなっています。(結構面倒くさいですけど…)

資本金要件だけで判断される下請法

下請法は、独占禁止法が禁止する優越的地位の濫用から下請事業者を守るために特別に用意された法律で、製造業に携わる者にとっては基本中の基本。もっとも、現在では役務提供やコンテンツ制作などにも適用がありますし、PB商品の拡大などもあって、業種を問わず理解が求められる法律になっています。

しかし、下請法の条文自体はシンプルであるものの、適用の場面では悩むことも少なくありません。さらに、保護を受ける対象かどうかは「資本金」という、ビジネス上の立場とは直接関連のないポイントによってのみ決まり、弱者保護という目的に照らすとやや不合理さを覚える法律です。

発注書面の交付義務

下請法の適用があるのは、①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託の4つの取引類型のみですが、この類型に当たる場合には、親事業者には4つの義務と11の禁止行為が課させられます。義務のうち、実務上もっとも負荷が大きいと思われるのが、発注書面の交付義務です(下請法3条)。

親事業者は、下請取引の発注に際し、所定の事項を記載した書面を下請事業者に交付せねばなりません。その「所定の事項」は以下のとおりです。

 

  1. 親事業者及び下請事業者の名称(番号,記号等による記載も可)
  2. 製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
  3. 下請事業者の給付の内容(委託の内容が分かるよう,明確に記載する。)
  4. 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は,役務が提供される期日又は期間)
  5. 下請事業者の給付を受領する場所
  6. 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は,検査を完了する期日
  7. 下請代金の額(具体的な金額を記載する必要があるが,算定方法による記載も可)
  8. 下請代金の支払期日
  9. 手形を交付する場合は,手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
  10. 一括決済方式で支払う場合は,金融機関名,貸付け又は支払可能額,親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
  11. 電子記録債権で支払う場合は,電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
  12. 原材料等を有償支給する場合は,品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日,決済方法
公正取引委員会HP

役務提供における「給付の内容」はどこまで詳細にすべきか

この発注書面を俗に「3条書面」と呼びますが、3条書面の記載事項のうち「給付の内容」はもっとも重要な取引条件です。製造委託であれば特定も容易なのですが、継続的な役務提供取引の場合、「やること」は同じでも、日々の給付の内容は変わる可能性があります。たとえば、「清掃」という役務の場合、普段は3か所で役務提供を行うところ、その日だけは特別に4か所で行うといった具合です。この場合、4か所回る場合には、改めて3条書面が必要でしょうか。

我が社では、そういった業務では「どこで」も給付の内容の一部と考え、改めての交付が必要という前提で対応しているのですが、しょっちゅう変わる役務提供場所をいちいち紙にプリントして交付するなんて非効率だと感じています。

3条書面は、下請事業者の事前承諾がない限り電磁的方法による交付は認められませんし(下請法施行令2条1項)、仮に承諾を得たとしても、下請事業者側で出力して書面にすることができなければならず(下請法第3条の書面の記載事項等に関する規則第2条第2項)、提示だけでは足りません。そこで、「どこで」は3条書面に不要ということであれば、都度の交付はいらず、結構ラクになるはずです。もっとも、発注内容の証拠化という趣旨を考えれば、やはりきちんと発注書面に記載することが必要なのだろうとは思うのですが。

 

当社グループの場合、我が社が子会社に役務提供委託を行い、子会社がさらに再委託する部分が下請取引です。

下請調査対応の学びとして、我が社が直接役務提供委託をすれば、下請法の適用はなくなり、書面交付義務や保存義務から解放されるので、いっそ契約者を我が社に切り替えてはどうか?とも検討しています。下請法の潜脱行為とか言われたりして。。