Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

地方の従業員から相談がこない理由を考える

f:id:itotanu:20191118171514j:plain

最近、所用で国内出張が続いており、地方で働く当社従業員と話す機会を得ています。

彼らの多くは営業マンで、普段、法務の存在なんて気にかけることもない方々。

自己紹介をすると、「うちに法務なんてあるんだ」「法務って、そんなことやってるんだ」というような感想が漏れ聞こえます。

事業部門のコンプライアンス意識の醸成が大切というけれど

実効的な内部統制のためには、第1線である現場の人たちのコンプライアンス意識の醸成が必要であり、そのためにはハードとソフトの両面から取り組むことが重要とされています(グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針)。

ハード面とは、ルール整備やITインフラ等を、ソフト面とは、意識の醸成や浸透を意味しています。気合とお金があればハードを整備することは簡単ですが、ソフトはそれほど簡単ではありません。しかし、実際の企業不祥事では、ルールはあってもそのとおり運用されていなかったり、コンプライアンス意識の醸成ができていなかったりと、ソフト面の不備に起因するケースが多いと評されています。

もちろん私も、他社の第三者委員会報告書などを見て学び、ハード・ソフトの整備に取り組んでいるつもりですが、我が社従業員の法務に対する認知が冒頭のとおりでは。。力不足を痛感しています。

幸い意識は高いが、相談はこない

ただ、従業員の話を聞いていると、幸いにもコンプライアンス、とりわけ法令遵守に対する意識はかなり高く、「絶対ダメ!」と心に誓っている従業員は多いです。

にもかかわらず、現場の相談が法務部門に届くことはほとんどありません。その理由をいくつか考えてみました。

  1. 誰かが止めている
  2. ネットの情報などで自己解決している
  3. 問題に気づいていない

法務は遠い?

「誰かが止めている」と書くと聞こえが良くないのですが、たとえば当社で現場の従業員が法務に相談したいとなると、次のようなルートを辿ることになります。

 相談者→相談者の上長(地域の営業部)→本社の営業統括部門→法務部門

「相談者の上長」や「本社の営業統括部門」も1名とは限らず、「今すぐ相談したいのに、法務にたどり着くまでに1週間かかる」なんてこともあるかもしれません。また、上長の中には、本社の手を煩わせること、あるいは本社に不備(かもしれないこと)を知られることに慎重になる方もいるかもしれません。そんなわけで、法務に相談しようというインセンティブが働きにくい可能性があります。

少なくとも、本社の営業統括部門を飛ばして相談してもらってもいいのでは?と思うこともあるのですが、営業統括部門には彼らの考えがあり、現在は、法務部門が直接回答することは避けています。

ネットが教えてくれる?

以前、法務に相談してくれた従業員に、こう言われたことがあります。「それじゃ、ネットに書いてることと同じじゃん。」ちょっと悲しかったですね。笑

最近は、法曹関係者も情報発信に熱心で、契約書のサンプルを公開されたり、法律解釈をわかりやすく提供されたりしていて、法務パーソンでなくても法的問題を考え、結論を出すことができます。それ自体は歓迎すべきことですし、基本的には有資格者が自身の専門範囲について見解を述べているので、一定程度信用に足るものとは思います。

しかし、法的問題の難しいところは、あるケースで導かれる結論が必ずしも他のケースに当てはまるとは言えないところ。前提条件や事実関係の把握の重要さを、法務部門としては伝えていく必要があると感じています。(妙案あれば教えてほしい!)

自信満々が逆に不安

コンプライアンスはバッチリ」と自負している従業員が多いことに、安堵し誇らしく思う反面、とても危険に感じています。なぜならコンプライアンスはさほど簡単なものではないから。問題に気づかないうちに、うっかり法令違反をしているケースがあるのではないか?と懸念しています。そして、これが最も大きな落とし穴ではないかと。

たとえば、我が社の行動規範には、当然ながら反社会的勢力との関係断絶が謳われており、誰しも関係など持っていないと信じて疑いません。しかし、実際には、フロント企業を顧客にしてしまっていることもありました。

車の運転と同じように「〜だろう」ではなく、「〜かもしれない」という意識を醸成するにはどうすればよいのか、来年のコンプライアンス研修のテーマとして取り上げたほうがよさそう。

法務の存在が知られていない

我が社に法務部門ができてからまだ10年も経っていないからか、あるいは他に理由があるのか、法務部門の存在を知らない従業員が多く、本社を出ると、冒頭のように「法務なんてあるんだ」という感想が聞かれます。毎月、コンプライアンス通信とか発信しているんですけれど…

こんなことでは、「〜かもしれない。誰か(法務)に聞いてみよう。」という発想にもならないわけで、社内に頼れる、頼るべき存在があることを、もっとアピールしていかなければならないと気を引き締める出張体験でした。