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反社会的勢力の定義

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先週のことですが、野党議員の反社会的勢力の定義に関する質問に対し、「統一的に定義できない」と政府が答弁したことで、「じゃあ、反社会的勢力って何?」ということが話題となりました。

質問と答弁の詳細

質問主意書答弁書の原文は、以下のとおりです。

まず、質問主意書から。

 

政府は平成十九年、犯罪対策閣僚会議の下に設置された暴力団資金源等総合対策ワーキングチームにおける検討を経て、企業が反社会的勢力による被害を防止するための基本的な理念や具体的な対応について、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を取りまとめました。この指針において、「反社会的勢力」とは、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義し、民間企業においても、この定義のもとに反社会的勢力との関係遮断に取り組んできています。(略) 

一 政府は上記指針において定義している「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」以外の意味で「反社会的勢力」という単語を用いたことはあるのでしょうか。
二 他の意味で用いたことがあるのであれば、閣僚や政府参考人等の国会答弁、各種施策の説明資料を含めて実例を全て明らかにし、どのような意味で用いたのかを説明してください。
三 民間企業は上記指針に基づいて、反社会的勢力との関係の遮断や不当な要求等への対応を行ってきたと承知しています。しかし、異なる定義があるとすると対応方針を変更する必要が生じかねません。政府として、改めて「反社会的勢力」とは何かを定義付ける必要があると考えますが、いかがでしょうか。
四 また、定義付ける場合、どのような定義となるのか具体的に示してください。

 これに対する答弁は、以下のとおり。

 

一から四までについて

政府としては、「反社会的勢力」については、その形態が多様であり、また、その時々に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難であると考えている。また、政府が過去に行った国会答弁、政府が過去に作成した各種説明資料等における「反社会的勢力」との用語の使用の全ての実例やそれらのそれぞれの意味について網羅的に確認することは困難である。

なお、御指摘の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成十九年六月月十九日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)は、暴力団の不透明化や資金獲得活動の巧妙化が進む中で、民間企業が「暴力団をはじめとする反社会的勢力」との関係を遮断し、これらによる被害を防止することができるようにする観点から、そのための基本的な理念や具体的な対応について取りまとめるものである。現在、民間企業においては、当該指針を踏まえた上で、「暴力団を始めとする反社会的勢力」との関係の遮断のための取組を着実に進めている実態があるものと承知している。 

 ※太字及び下線は筆者

報道のとおり、答弁は極めてシンプルなものでした。

違う回答があったのではないか

正直に申し上げて、今回の答弁は、もう少し違う言い方ができたのではないかと思います。(その前の官房長官の定例会見での発言を撤回する必要がありますが…)

企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」では、(脚注で)反社会的勢力を「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と明確にいっているわけですから、これを反社会的勢力の定義と答弁しても良かったのではないでしょうか。

そのうえで、特定の集団や個人がこの定義に該当するかどうかは、個別具体的な検討を要するという、規範→当てはめ→結論の法的三段論法で考えれば良いのでは?と思いました。

企業は「反社会的勢力」をどのように定義しているか

政府は「統一的に定義することは困難」と答弁しましたが、契約書では「反社会的勢力」という得体の知れないワードをそのまま用いることはできず、何らかの定義を与える必要があります。では、どんな定義を使っているか。

引用元は、大きく2つあるのではないでしょうか。

まず、件の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」では、反社会的勢力を捉えるに際しては、「暴力団暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等の属性要件に着目する」とされていますので、これを定義に使うことがあります(なお、当該指針では、属性要件のみならず、暴力的な要求行為等行為要件にも着目することが重要であると述べられており、行為要件についても契約書で触れておくことが一般的です。)。

もうひとつは、警察庁の組織犯罪対策要綱で使っている「暴力団等」の定義です。こちらでは、暴力団暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等とされています。

このいずれかの定義をベースに、又はこれらを合体させた上で、これらに準ずる者や、暴力団員でなくなってから5年を経過していない者まで含めるというのが一般的ではないでしょうか。

企業に変化はない

一部のメディアやネットには「反社会的勢力って何なんだ!定義できないなら対策の打ちようがないじゃないか!」という論調もありましたが、企業には、反社会的勢力の定義を改めて考えようという風潮はないように感じます。

少なくとも我が社では何もしませんが、今回の答弁が承認されたことで何か変わっていくのでしょうか。