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大阪で働く法務パーソンのはなし

登録免許税(の額)に驚く

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前回のJ-KISSの記事で、J-KISSが日本で特に有効活用されるべき理由のひとつとして、エクイティファイナンスでありながら、登記申請時の登録免許税の負担が軽いということを挙げました。

今日は、私が普段感じている登記における登録免許税の違和感について。

最近、スケッチノートを実践しておりまして、今日のまとめを画像のとおり表してみました(まだまだ修行中です!)。

増資登記の登録免許税額は増資額の7/1000

会社が増資(資本金の額の増加)すれば変更登記が必要ですが、その登録免許税額は「増加する資本金の額の7/1000」です。1,000万円の増資をするなら7万円と、結構高いので、少しでも節約しようと、調達額の半分だけを資本金に組み入れ、残りは準備金とするということが実務上よく行われています。数千万円の調達に成功したとして、数十万円をただただ登記するためだけに持っていかれるのは、スタートアップでなくても惜しいですから。

増資額と登記の審査の手間が比例するのであれば、税額もそれに合わせてプロラタで、というならわかりますが、増資額が増えても必要書類に変更はないし、ゼロを数えるちょっとの時間が変わるだけと思われるのです。登記官の負担で考えると、新株予約権や種類株式の発行のほうが複雑です!

増資、役員変更、本店移転、商号変更など、変更登記申請はスタートアップでも意外と頻繁に必要なので、起業を奨励するなら、「設立後●年間は登録免許税は一律1万円」とかにしてはどうでしょうか。調べたところ、商業法人登記にかかる登録免許税の納付額は、2018年度で約660億円であり、税収のわずか0.1%ほどと減税の影響はほとんどないと思いますし。

不動産の所有権移転登記は痛い!

もうひとつの違和感は、不動産登記、とりわけ所有権移転登記にかかる登録免許税額です。

我が社は設立から約50年経つのですが、その歴史の中で、商号変更したり、本店移転したり、合併したり、会社分割をしたり…というようなことがありました。

数年前のこと。会社分割により純粋持株会社体制に移行することになり、所有不動産は事業会社に承継させることにしました。これに関連する所有権移転登記について、司法書士に必要費用の見積もりを依頼したところ、その額を見て一同目玉が飛び出そうになりました。だって、その額2,000万円を優に超えていたのですから!両手で足りるほどの物件しかないのに。。

登記申請は個別にしなければならない

なぜそんな額になったかというと、根本原因は、これまで変更登記を怠ってきたツケなのです。怠ってきた理由は、以下3つがあげられると思います。

  1. 面倒くさい
  2. 登録免許税が高い
  3. 所有権移転登記は義務ではない

まず何より、登記は面倒くさい。

商号が変わるとか、会社が合併したり会社分割したりして包括承継が発生するとか、会社単位で見れば単一の出来事です。でも、不動産登記は土地一筆一筆、建物一棟一棟に登記簿が起こされ、それぞれの登記簿は独立しています(共同担保目録は例外かもしれません)。よって、商号が変われば、一筆・一棟ごとに変更登記を申請せねばならず、その準備は結構大変なのです。

所有権移転登記の登録免許税は固定資産評価額×最大20/1000

次に、所有権移転登記の登録免許税額が高い。

所有権移転登記の登録免許税は、登記原因によって課税割合が変わります。もっとも割高なのは、売買や会社分割などのケースで、その額なんと【不動産の価額×20/1000】。不動産の価額とは、固定資産評価額(固定資産税の基礎となるもの)です。評価額の2%を税金として納めないといけないとは、なんとも痛い。

相続や合併の場合は、課税割合が4/1000となりますが、それでも都心の不動産は結構な額になるでしょう。

ただでさえ面倒臭い上、こんなにも登録免許税がかかる→処分するまで置いておこう、という発想になるのは自然なことですよね。

所有権移転登記は義務ではない

最後に、商業登記に慣れていると違和感がありますが、不動産登記法上、所有権移転登記は義務ではありません。「登記懈怠」はないのです。

登録免許税も結構な額ですから、「何かあるまで置いておこう」となるわけです。

もっと簡単にできるはず!

不動産登記に公信力がないとはいえ、長年法務をやっている私には、登記と実態が合っていないのは非常に気持ちが悪いです。現在の体制であれば、もっと簡単に所有権移転登記や変更登記ができるのではないかと思うのです。具体的には、以下2つを実現してほしい。

  1. 一括申請を可能にする
  2. 会社の組織再編行為による所有権移転の登録免許税額を下げる

以前の登記簿は本当に紙に記録していましたが、すでにオンライン化は完了していたと思います。つまり、全国の登記所はオンラインでつながっているはず。そして、マイナンバーや法人番号の導入も行われ、納税に関しては国民一人ひとりに背番号がつきました。ここまで環境が整っているのだから、「こことこことここのA社所有不動産の所有権はB社に移転した」とA社の本店所在地あたりに一括申請(何なら組織再編の登記申請と同時に!)できるようになったらいいのに…

そして、そのような登記申請なら、おそらく登記官のお手間もさほど取らせないはずで、1件あたり1,000円くらいでやってくれたらうれしいです。不動産登記での商号変更登記の登録免許税額がこの額なので、ひとつお願いしたいです!