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大阪で働く法務パーソンのはなし

コロナウイルス対策つづき

SARSが流行した頃、私は学生だったのですが、当時どんなことが起きていたかさっぱり覚えていません。ただ、現在のように、色々な価値のある情報が(インターネット環境さえあれば)無料で手に入るという状況ではなかったと思います。

子どもたちが家でも学習できるようにコンテンツを無料で開放したり、どのように対応することが考えられるかをシェアしたり。その要因は、ICTの発達か、ミレニアル世代の活躍か。

さて、WHOがパンデミックを認め、特措法も成立した先週、商事法務が企業にとって大変参考になる情報を公開されました。

NBL・資料版商事法務の関連記事を無償公開

商事法務が先週新たに公開した記事は、NBLと資料版商事法務。

NBLでは、「新型コロナウイルス 現下の課題と法務の取組み」という特集記事が公開されました。

具体的には、以下の記事4点から成ります。

  1. 「今こそLEGAL BCPの発動を」
  2. 株主総会における新型コロナウイルスへの対応について」
  3. 「従業員の労務管理等Q&A」
  4. 「株式会社電通グループにおける対応」

どれも非常に参考になる記事で、すべてお読みになることをお勧めしますが、中でも政府の自粛要請直後に定時総会を開催することになってしまったキューピーさんの対応の記録は、間も無く定時総会を迎えられる会社さんは必読必須。こんなにも詳細に教えてくださって、後に続く当社も心強い限り。なお、先日の記事で、来場者数は前年と変化がなかったと書きましたが、実は想定の半分程度だったそうです。

資料版商事法務では、「新型コロナウイルス感染の拡大防止のための株主総会運営に係る留意事項」と題して、「証券代行といえば」の中川雅博氏による豊富な他社事例・対応の留意点や考えをまとめた記事が公開されました。

このスピード感、すごいですね。しかも、特筆すべきことに、資料版商事法務に至っては、未確定稿の段階で公開をしてくださいました。一分一秒でも早く対策を練りたい3月総会企業にとっては、発売までの数日も惜しいはずで、スピードを優先してくださったことは大変ありがたかったに違いありません。

経営法友会はコロナ対策セミナーを緊急開催

また、先週は、経営法友会でコロナ対策セミナーが開催されました。

大手商社と日中の弁護士による、大阪ー東京ー上海の多次元中継。多次元のオンラインセミナーを受けたのは初めてだったのですが、タイムラグや音声が切れることが一切なくて、非常に快適でした。

さて、上海からの報告によれば、中国では本当に終息に向かっているようで、上海では多くの企業が営業を再開しているそうです。ここまで世界的な広がりを見せている今、終息宣言を出すことは難しいかもしれないけれど、全人代が開催されれば、それが事実上の終息宣言であるということでした。パンデミックの中心が、完全にヨーロッパに移ったということですね。

コロナ影響は不可抗力か?

このセミナーの中心的な話は、「コロナの影響による債務不履行は不可抗力免責の対象になるか」というものでした。

中国契約法では、不可抗力の要件(①予見不能、②回避不能、③克服不能)が明定されていて、免責を受ける要件(相手方への通知や損害軽減に努めることなど)についても定めがあり、不可抗力証明書のようなものを発行する習慣もあるとのことでした。

翻って日本では「不可抗力」については、民法に謎の?「(金銭債務については)債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない」(民法419条3項)があるだけで、(金銭債務でない)不可抗力免責は裁判例含む解釈上認められているのみですね。

もっとも、不可抗力免責については契約で定めることが一般的になっており、当該条項では(英文契約の影響もあって)具体的な事由を例示列挙することが多いです。とはいえ、パンデミックや疫病流行といったワードを列挙しているケースはかなりレアのはず。それでも、基本的には不可抗力事由と解して良いのではないか?というのが、日本法弁護士の見解でしたし、そうであってほしいと私も思います。

ただ、中国同様、不可抗力だから直ちに免責されるわけではない、というのが裁判例の考えと思われるのことでした。それはそうでしょうね…

今の日本は債務不履行より労務・総会対応

法務でコロナ関係の話題といえば、この不可抗力免責を取り上げるものが少なくありませんが、日本企業では、今はまだそのタイミングではないように思います。

今、私たち法務パーソンの関心は、まだまだもっと手前で、

  • 万全を期して在宅勤務をさせるべきなのか(認めなくて感染者が発生したら安全配慮義務違反か?)
  • 社員に毎朝検温させ、結果を報告させるべきか(そこまでしないとダメ?)
  • 休校で休まざるを得ない社員に特別の有給休暇を与えるべきか(国は満額の補償をしてくれないけど…)
  • 感染者が発生したらどこまで対応すべきか(どこまで出勤停止にすべきか)
  • 出勤停止や在宅勤務の解除はいつすればいいのか
  • 株主総会にどう対応すればいいのか

といった、労務や総会対応ではないかと思います。まだそんなことを考えているようでは遅いとお叱りを受けるかもしれませんが。。

働き方のルールやICTの整備状況は各社各様であり、労務は特に取り上げるのが難しい問題ではありますが、真正面から取り上げてほしい。だからこそ、疑似感染者の扱いや派遣社員のことなども取り上げてくださった、冒頭のNBLの記事はすごくありがたかったです。