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大阪で働く法務パーソンのはなし

脱ハンコの解は電子契約か?(5/8 22:30差替)

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※手違いで、下書きが投稿されていたため、最終稿と差し替えています(5月8日)22:30。
 こんなミスをするとはショック。。

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先日、IT政策担当大臣が「しょせんは民・民の話」とおっしゃったかと思えば、先の経済財政諮問会議で総理が押印や書面提出等の制度・慣行の見直しに言及されました。
その背景には、緊急事態宣言下にあっても、「押印のため」という残念な義務的出社の存在があり、電子契約が一段と注目を浴びています。

ところで、電子契約は、脱ハンコの唯一解でしょうか。

総理がハンコ文化に触れた

4月27日開催の経済財政諮問会議では、今回の緊急経済対策を実りあるものにするため、また、テレワークの推進に向けて、押印・書面の手間を省くことが有識者から提言され、これに対し首相は以下のように発言されたそうです。

 

本日の有識者議員の提言を踏まえ、関係府省において、早急に必要な見直しを行っていただきたい。特に、テレワークの推進に向けて、押印や書面提出等の制度・慣行の見直しについて、緊急の対応措置を、規制改革推進会議において早急に方針を取りまとめ、IT総合戦略本部と連携しつつ、着手できるものから順次、実行していただきたい。

第6回経済財政諮問会議議事要旨

きっと今頃、規制改革推進会議の関係者の方々が一生懸命知恵を絞ってくださっているはずです(IT政策担当大臣も当然…)。デジタルファースト法で少なくとも登記事項証明書の提出はなくなると期待していたのですが、ぐんと進むといいですね。民間でも、GMOさんやメルカリさん以外にも、いくつかの企業が電子契約へのシフトを公表されているようです。

脱ハンコのネックは権限移譲へのためらい?

先日受けた電子契約関連のセミナーで、脱ハンコの障害は権限委譲へのためらいだ、というようなお話がありました。

ハンコ文化の日本企業は、ハンコを総務なり法務なりが管理していて、これが関所となることで契約書の一括管理ができていた、という趣旨だと思うのですが、果たしてそうでしょうか。

当社で考えてみると、少し事情が違います。当社では、部門長がそれぞれ職務権限規程で定める範囲で契約締結権限を有しており、法務の知らないところで契約書がどんどん作成・締結されていきます。一定規模以上の企業では、同じような実務ではないでしょうか。どこか一つの部署だけで会社が契約するすべての契約書の押印を管理することは難しいと思われます。

根本原因は危機感のなさ?

セミナーで提起された仮説が正しいとすると、当社では脱ハンコに馴染みやすくていいはずですが、現実はそうではありません。(導入を提案しては夢破れること数知れず…)
では当社で電子契約が広がらないネックは何か?というと、得体がしれないものにチャレンジしたくないという変化を嫌う姿勢と、それが許されるくらいの危機感しかないことだろうと考えています。つまり、危機感のなさが最大の課題です。では、誰の危機感が欠けているのかというと、つまるところトップなんでしょう。みんなトップの顔見ながら仕事するんですから。

そもそも電子契約である必要があるか

話を戻して、、私は、【脱ハンコ=電子契約】という刷り込みがいつの間にか出来上がっていて、「電子契約を導入せねば!」と思い込んでいたのですが、先日受けたサイボウズさんのセミナーでハッとさせられました。

緊急事態宣言下のサイボウズさんでは、押印を極小化すべく、次の方法をとっているというお話でした。

  1. そもそもその書類は押印が必要なのか見直し、不要なら押印を廃止する
  2. 電子契約にする
  3. それでもダメなら押印(でも今は時間的猶予をいただく)

ハッとしたのは、ひとつめの「押印を廃止」の部分。
「メールでPDF送付」で足りるならそれで、というだけでなく、ワークフロー(サイボウズさんならkintone)で済ませるケースもあると紹介を受けました。確かに。

意思表示で大切なのは、その意思が本人によってされることです。ワークフローなら、本人しかアクセスできないはずのアカウントがあるので、本人性はハンコよりずっと担保されます。しかも、承認した日時の記録も残る優れもの。
当社では、インサイダー案件に関わるときには、秘密情報の取扱いに関する誓約書を提出させられることがあるのですが、こういうものは「紙に署名押印」をやめて、ワークフローなりメールで済ませたらいいんだ!と気づきました。「署名」や「押印」が心理的プレッシャーを与えていいんだ、という考えもあるかもしれませんが、せっかく買いてもらった紙も保管場所に困るし、紙よりずっと詳細に「承認」した記録が残るので、プレッシャー度も十分のはず。
しかも、画一的な内容なら、ワークフローやメールどころか、MicrosoftFormsを利用してもいいのではないかとさえ思えてきました。

脱ハンコ≠電子契約

デジタルトランスフォーメーション→脱ハンコ→電子契約というフレームを所与のものととらえていましたが、電子契約だけが答えではありません。

  1. その書類の紙での作成をいっそやめる
  2. ワークフローで済ませる(社内)
  3. メールで済ませる
  4. 電子契約にする
  5. それもダメならやはりハンコ

というような選択肢があり、最初に検討すべきは「それ、ハンコじゃないとダメなの?」をゼロベースで見直すことなんですよね。