Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

退職代行サービスにあう

f:id:itotanu:20200531230249p:plain

当社グループには、労働集約型の事業があり、勤続年数が長い人も多いですが、比較的すぐに退職されてしまう方もいます。

先日、そんなグループ会社で、退職代行サービスを利用して退職申し出をしてきた従業員がいました。

退職は突然に

その従業員は、ある日体調不良の休暇願いを出し、時期も時期で社内ルールを設けていたので、大事をとってもう1日休暇を取るように指示したところ、大事をとって休んでもらった日に、退職代行業者から電話で退職の申し出がありました。特段のトラブルはなかったと聞いています。

現場の担当者は、急なことで驚き、「本人にコンタクトを取りたい!」といったのですが、本社サイドから「やめておきなさい」と指示を出しました。本人の退職意思が固く、かつ、会社と顔を合わせたくないからわざわざお金を払って代行サービス使ったんでしょうに。

退職の意思表示をどう確認する?

退職代行業者からは、「有給休暇を消化して●日付で退職させていただきたいです。退職届と貸与物は今日郵送します。本人には連絡せず、連絡はこちらにしてください。以上。」みたいな一方的な通告が電話であったそうです。

担当者は突然のことで驚いていましたが、本人の退職意思が確認できれば粛々と手続を進めればいい、というのが本社の意向。では、「退職の意思表示」が本人によりされたものであることをどうやって確認すればいいでしょうか。

退職届が自筆であることが確認できれば、本人による意思表示と考えて問題ないものと思われますが、自筆でなく記名押印、しかもどこでも買えそうな三文判やシャチハタだった場合は、一抹の不安を覚えます。この点、弁護士とも相談したのですが、グループ会社の場合は貸与物があり、それによって本人であるとある程度推定できれば、退職届の提出と貸与物の返却をもって退職の意思表示があったと扱って差し支えないのではということになりました。たとえば、本人に貸与したPCが返却されれば、それはもう本人の意思だと考えていいですよね。

非弁行為?

人事的には、この代行業者からの申し出を正規の退職手続に乗せていいかどうかに強い関心があったわけですが、法務的には、それに加えてこの代行業者の申し出の法的構成などにも関心が及びます。つまり、非弁行為にならないの?ということ。仮に非弁行為だったとして、会社側は特別の不利益はないはずなんですけれども。。

実際、代行業者も様々のようで、非弁行為に抵触するようなこと(交渉など)をするところもあるようですが、今回は電話してきて、退職届などを郵送するだけなので、これは本人の「使者」にすぎないと考えてよさそうです。

労働組合を名乗るところも

さらに、代行業者の中には、労働組合を名乗って「会社と交渉できる」と宣伝しているところもあります。それ、依頼者は組合員になるの?(代行料=組合費か?)とか、労働組合に認められるのは団体交渉権であって、特定の労働者に関する個別交渉(しかも退職!)をする権利まであるのか?とか、ツッコミどころはあるのですが、労働組合を名乗られると、会社としては慎重な対応をせざるを得ません。不当労働行為とか言われたら嫌ですからね。本人に直接コンタクトしようものなら、何を言われるか。
労務ローヤーによれば団体交渉と個別交渉の線引きは難しいところがあるというし…

誠実か不誠実か

ある日突然、代行業者を使って退職の申し出をしたくなるほど、この従業員が上司とコミュニケーションが取れなかったことが、本人の問題か会社の問題か、私にはわかりません。会社に問題が何もなかったとはいえないと思いますが…
代行サービスの利用を「なんて非常識なんだ!」と怒る人もいますが、前職を含めて、音信不通のまま退職扱いにせざるを得ない従業員を何人も見てきたので、他人を使うとはいえ、きちんとけじめをつけようとするこの従業員には、誠実さや常識が備わっているように私には感じられます。

退職したいけれど言い出せないという方は、使ったらいいと思う。私もメモしておこう。笑