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大阪で働く法務パーソンのはなし

海外企業との下請取引

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先日、グループ会社から海外企業との取引契約に関する相談がありました。

海外企業から製造の委託を受け、日本で製造するというのですが、果たして下請法との関係をどう考えればよいでしょうか。

海外の巨大企業から発注!

今回、取引をすることになったのは、これまで長年取引がある日本企業の親会社。売上規模は兆円単位、その業種では世界でも10本の指に入る巨大企業です。かたや、当方の資本金の額は3億円に及ばず、海外取引先がないとは言いませんが、基本的にドメスティックな企業です。

圧倒的に相手方が優越的地位にあり、製造委託契約も当然先方が提示し、基本的に修正余地はありません。英語でいただけただけ、ありがたいと思わないといけないかも?

さて、今回の取引は、海外企業から、海外販売用の製品の製造委託を受け、国内で製造して輸出するという取組みです。相手方が日本企業であれば、間違いなく下請法の適用対象になります。

海外企業に下請取引の適用はあるか?

では、今回のケースでは、下請法の適用はあるのでしょうか。

契約書を読んでいると、支払サイトが60日を超えていたり、不可抗力の場合でも納期遅延ではペナルティがあったり、製造過程で生じた発明等については、少なくとも無償でのサブライセンス権付きのライセンスを付与しなければならないなど、下請法上問題になりそうな規定がちらほら。

当方は日本企業ですし、製造は日本で行うのだし、取引は日本で行われると考えて、下請法の適用があってしかるべきではないか?下請法の目的は、下請事業者の保護でしょう?と考えてリサーチをしてみたら、意外な結末でした…

「運用上、海外法人の取締まりを行っていません」!?

中小企業庁のサイトには、『中小企業向けQ&A集(下請110番)』というページがあり、そこに私たちの境遇とぴったりな質問が掲載されています。

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中小企業向けQ&A集(下請110番)Q.13

 

中小企業庁って、経済産業省傘下の立派なお役所で、公正取引委員会と一緒に下請取引の書面調査を行ったり、公正取引委員会に対して下請法違反の措置請求を行ったりする機関です。そんな下請法の運用を担っているお役所が、堂々と「取り締まってない」なんて言っていいんでしょうか!?

と憤っていたら、10年前に植村先生が指摘されていました。すると、少なくとも10年はこのままってことですかね…

故意ではないと信じたいですが、なぜかこのQ.13は質問見出しだけがサイトに掲載されていて、内容はPDFをダウンロードしないと確認できません。見せたくないの?と邪推してしまう…

植村先生の考察によれば、下請法は日本独自の法律で、海外企業に適用するのは「据わりが悪い」からではないかとのこと。確かに、「そんなローカルルール知らん!」とか言われそう。。(外国でビジネスするならその国の法律を理解いただかないとダメなんですけど…)

ならば優越的地位の濫用?

以上のわけで、理屈的には下請法上の保護を受けられてもよさそうなのですが、実際にはその可能性が見込めないことが中小企業庁の宣言で確認されてしまいました。そうすると、弱い立場の事業者は泣き寝入りするしかないのでしょうか。

仮に下請法の適用がないとしても、独占禁止法の適用、すなわち優越的地位の濫用の適用可能性はあるのではないかと考えたのですが、この点について、植村先生は同じ記事で次のように述べていらっしゃいました。

 

優越的地位の意味について取引必要説(濫用の被害者が、濫用者と取引をせざるをえないような場合に「優越的地位」有りとする考え)を取る実務を前提にすると、日本の企業が外国の企業と取引をせざるをえないというような場合が今まではなかったから、海外企業に対して優越的地位濫用規制が発動されたことがない、ということなのでしょう。

日本企業同士なら、実際の力関係を考慮せず、資本金の額という外形的な基準だけで取り締まるのに、海外が相手となると見てもくれないのですね…