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大阪で働く法務パーソンのはなし

外部専門家としての弁護士に求めたいコト

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中村直人弁護士の新著が、弁護士界で話題になっているそうです。

私、弁護士じゃないし…とスルーするつもりでしたが、水野先生の書評を読み、本を読んでもないのに、周りの弁護士に配り歩きたい気持ちになっています。

 

なのに、いくつかの大手書店をあたってみたけれど、在庫がなく、あきらめてネットで買おうとしたら、こちらもメーカー取り寄せとなっておりました。中村先生、すごい。

読んでもない本と他人の書評であれこれ言うのはあまり行儀がよくないかもしれませんが、クライアントの立場で常々思っている点を水野先生が突いてらっしゃったので、便乗。

『訴訟の心得』で学んだ「相手の立場に立つ」こと

以前、中村先生の『訴訟の心得』を読んだことがあります。

訴訟の心得

訴訟の心得

  • 作者:中村直人
  • 発売日: 2015/01/28
  • メディア: 単行本
 

ここで、中村先生がいかに相手(裁判官)の立場に立って物事を考え、進めていらっしゃるのかをよく学びました。おそらく、多くの弁護士にとって厳しいことが書いてあるのだろうけれど、「裁判官」を「依頼者」に置き換えると、私にとっても身が引き締まる内容でした。やたら長い書面がNGであることはもちろん、一文の長さにまで気を配ったり*1、装飾も最小限にしたりと、やはり細部にまで配慮してこそ相手を動かすのだと確信しました。以来、うちのメンバーにも細部にまでこだわることを正々堂々求めています。

圧倒的なスピード

『訴訟の心得』でもその片鱗を十分に感じることができたけれど*2、新著では、中村先生のスピードへのこだわりが強く表れているそうです。しかも、ただ早いだけではダメで、「圧倒的に」早くないとダメだと。

私は、依頼者と信頼関係を築き、維持するためには、ちょっとしたサプライズ、相手の期待を超えることが必要と考えているのですが、スピードというのは、これに勝るものはないのでは?というほど効果テキメンです。ここぞというときに、期待を上回るスピードでボールを打ち返すと、想定以上に感謝され、次はもっといいタイミングで相談してくれたりします。すなわち、私たちのプレゼンスが上がるわけです。水野先生も次のようにお書きになっていました。

 

あと、面白いのは「依頼者を驚かすくらいやらないと弁護士として印象に残らない」という趣旨のフレーズが本書のなかで何度か出てくることです。「まあまあ良い弁護士」と「すごい弁護士」を分ける差はここなんだろうな、と。

想定以下の仕事をする<想定内の仕事をする<安心してお任せできる<<驚きを与える
弁護士の腕は、こんな感じで分かれるということでしょうか。

クライアントを馬鹿にするな

この本の中で、(企業が)嫌いな弁護士として、「結論を言わない弁護士」が挙がっているそうです。私の推測にすぎませんが、これは単に「結論を言わない」ということではなく、「クライアントの立場に立った結論を言わない」ことがダメという趣旨なのだと思います。

これは本当にそうだし、多くの弁護士も理解しているに違いありません。しかし、それを実行してくださる弁護士は、どれくらいいらっしゃるでしょうか。twitterとかで心強いことを発言する弁護士の事務所でも、実際には保身に走ったとしか言いようのない超保守的回答しかくれないこともあります(弁護士の価値観も人それぞれとはいえ、宣伝するなら指導してほしい)。その回答を採用するならわざわざお金と時間を使って相談しないし、採用した結果悪く転んだとしても責めたりしないし、誠実に仕事をしてくださっていれば、次もまたお願いしますよ…

知りたいのは判断基準

お尋ねするほうもある程度は下調べをしているので、絶対的な解がないことを聞いている自覚はあるし、最後、どの案を採用するかは会社の判断であることも理解しています。
外部弁護士に相談をするのは、自分たちに見落としがないか、リスク評価に偏り・誤りがないかを客観的に見てほしい、そして、いくつか考えられる打ち手を選ぶ判断基準を示してほしいからなのに、後者をなおざりにする弁護士が多いのが残念です。つまり、「保守的に行くならA案、事実上の問題はないと考えるならB案」くらいで終わるのではなくて、「相手がこういう素性なので、カタくA案を取るべきだと思う」「万一問題が発生したところで、こういう方法があるし、B案でいいと思う」というところまで踏み込んでほしい。リクルートのいう「圧倒的な当事者意識」を持ってほしい。

あと、最近だと「書く力」が落ちていると感じることもあります。チームの若いメンバーに、「いい文章・書面を書くために、一流の文章を読みなさい。外部弁護士が起案した準備書面や契約書とかもいいね。」と言ってきたけれど、最近はそうとも言えなくなってきました。今、法律文書で文句なしに推せるのは、最高裁判決だけかもしれません…

外部弁護士にお願いしたいこと

随分と偉そうなことを書いてしまいましたが、まとめると、弁護士の先生方には次のことをお願いしたいです。

  • 最低限納期を守り、依頼者(法務部門)に確認する時間を与える
  • 「圧倒的な当事者意識」を持って起案・回答する
  • 細部にもこだわる
  • 中村先生の『訴訟の心得』と『弁護士になった「その先」のこと』を熟読する
  • ここぞというとき(不祥事案など)は、スピードと質で依頼者を驚かせる
  • クライアントからのフィードバックを積極的に求める

国内大手事務所が関西に進出を始めて約10年。最近は、それより規模の小さい事務所からも営業活動を受けます。「関西企業は昔から付き合いのある弁護士を重視して、なかなか新規獲得が難しい」という声もよく聞きますが、私の感覚では、重要な仕事なら、従前のお付き合いがなくても起用するところが多いです。当社だってそうです。

だから、気を抜かず、ただ誠実に依頼者に向き合ってくだされば、クライアントは自ずとついてくるものと思います。

*1:2〜3行以内に収めるべし、とのことです(P.47)。裁判官ならもっと長くても平気そうですけど…

*2:たとえば、次の準備書面は期日直後に書くことが推奨されています(P.62)。しかし、それを実行している弁護士を私は知りません…期日直前に確認依頼があって、大急ぎで事実確認をすることもままあります。