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大阪で働く法務パーソンのはなし

電子契約の受け手になってみて

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最近、公私で電子契約を受け手側?で締結したり、それを見たりする機会が続けてありました。
直感的に操作できたのは良かったのですが、この道に明るくないままでいると、トラブルが起きるのではと実感です。

契約(合意)じゃない!

先日、ある講座に申し込んだら、運営会社さんから電子契約の締結を求められました。早速メールが届いてクリックすると、もうファイナル仕様になっているため、編集はおろかダウンロードやコピペすらできない…
やむなく電子サインするとすぐに「完成したのでこちらから所定期間内にダウンロードして保存してください」というようなメールが来て、ダウンロードしてみると、完成したとされる受講契約に電子サインがあるのは私だけ。紙なら、こんなことはないだろうに。

相手方のメールを申込み、私の電子サインを承諾と捉えて、受講契約が成立したと考えるのでしょうか…?最終的にはそれで良さそうな気がするけれど、契約書と名乗るからには、両者が電子サインしないと体をなさないし、証拠能力にもケチがつくのでは…

必ずしもリテラシーが高い人が利用するとは限らないので、電子契約事業者さんのほうで、合意タイプか差入れタイプか選ぶようにし、合意タイプならデフォルトで当事者のサイン欄を作成するようになればいいのではと、一ユーザーとして思いました。

締結されているのか?

また、その電子契約は、いわゆる「電子サイン」タイプのもので、タイムスタンプなどもつかず、一見すると、私の名前の横にスタンプが付いているだけです。ただのPDFファイルと見分けがつきません…
その電子契約事業者のアカウントを持っていれば、もう少し詳細な情報が確認できるようですが、作りたくない場合はPDFファイルのダウンロード(しかも有効期限付き)で我慢するしかありません。

受講契約を締結した証として私の手元にあるのは、①私の電子サインしかない、②それがスタンプ(画像)として付いているだけ、PDFファイルだけ。もちろんメールなどもあるので、契約成立が否定されることはないでしょうが、時間が経てば真正成立を疑われる可能性が高くなるのではと懸念します。

決裁権者じゃない!

仕事でも、とあるクラウドサービスを会社で利用するのにも電子契約を用いることになり、こちらも検討の機会を与えられることなく、電子サイン用のURLが担当者(非管理職)宛にメールで届きました。

その契約書には、「代表者か担当者が電子署名してください」と書いてあったのですが、私だったら、せめて「担当者が電子署名される場合は、権限のある代表者からの適法な授権があったものとみなします」とかなんとか書くかな…それでもスッキリしませんが。

こちらが決裁権者を送信先に指定すれば良いのでしょうが、決裁権者(役員)にいきなりメールが届いても迷惑メールと認識される可能性があります。身に覚えのないメールのURLをクリックするなと散々教育されていますし。
「電子契約でやってもいいですか?」と質問があれば、「どうぞどうぞ」と回答していましたが、社長や役員クラスが決裁権を持つ契約書の場合は、直接メールが行かないように方法を検討する必要があると、今更ながら気づきました。

本人確認の問題

ハンコは、他人が押印しても問題になることはほぼありません。しかし、電子署名の場合は、この本人性がより厳格に捉えられていて、他人が電子署名すると有効な電子署名ではなくなってしまいます(電子署名法2条1項1号)。

電子契約においては、この本人性をメールアドレスで担保することが一般的です。メールアドレスは、本人だけがID・PWを管理していて、本人だけがアクセス可能なものであるから、そのメールアドレス宛にユニークなURLを送り、そのURLからアクセスすることにより本人性が担保されるという仕組み。

つまり、電子契約においては、締結者のメールアドレスに電子署名用のURLを送る必要があるわけですが、社長などのメールアドレスをあちこちの取引先に開示するのは躊躇われます。この問題は、どう解決すれば良いのでしょうか。

  1. 諦めて決裁権者のアドレスを開示する
  2. 決裁権者ごとに契約締結用のアドレスを作成する
  3. 契約締結用のアドレスをひとつ作成し、全社でこちらを利用する
  4. 受付用アドレスを作成し、決裁権者に転送する
  5. 担当者が決裁権者に転送する

以上のように選択肢を考えてみましたが、現在の電子契約事業者のサービスだと、真の決裁権者が電子署名するならば電子メールが明らかになることは避けられないようですし、真の決裁権者でない者が電子署名すると本人性や真正成立の問題が残り、実は、電子契約導入の最大のネックはここにあるのではないか?という気がしてきました。

今の時代、メールアドレスくらい観念しましょうという話でしょうか…