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大阪で働く法務パーソンのはなし

読めないDDレポート

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久しぶりに法律事務所が作成したDDレポートを読む機会がありました。
自分も書く側にいたことがあるので、DDレポートをもらうたびに苦い思いが湧きます。もっと受け手の気持ちを考えるべきでした…

法務の「あたりまえ」は「あたりまえ」ではない

書く側にいたときは、他の専門家チームが作成するDDレポートに興味を覚えず気づかなかったのですが、法務DD以外のレポートは、PowerPointで作成するのがスタンダードです。そして、サマリーが付いていて、最近だと重要度を★の数で表してみたり、どこ(価格/契約/PMI)の話かを分別していたりします。
しかし、法務DDでは、Wordがスタンダードで、100ページ超となるものも珍しくなく、まるで本のよう。今は、サマリーを別に付けてくださることが多いし、重要度が書いてあることもありますが、他のチームのカラフルなプレゼン資料と比較すると、モノクロ・文字だらけの単調な分厚いレポートは…(以下自粛)

初めてDDに参加したメンバーが、「なぜ法律事務所のレポートはこんなに読みにくいのですか?」と容赦ない質問をしてきて、答えに困りました。私は、これが「あたりまえ」だと思ってきたよ。。

分厚すぎて読めないレポート

法務DDは、登記事項証明書や定款・社内規定、議事録類、株主名簿、契約書、官公庁からの書面など企業運営にまつわる膨大な資料をスクリーニングして、法的問題・リスクを抽出していきます。よって、組織・株式、資産、事業(契約)、労務、子会社…などとジャンルごとに分担するのが通常で、他の専門家チームと比べても人手がかかる作業になっていると思います。

こんなに分担しても見るべき資料も論点もいっぱいで、真面目にレポートを書くと、組織・株式パートだけでもWordで30ページくらいになります。でも、そんな調子で全てDDレポートに盛り込んでいたら数百ページになってしまうので、リーダーの弁護士が重要なものを絞って完成させていきます。
私自身、レポートを30ページ書いても最終版で採用されるのは5ページもない、ということばかりで、ちょっと寂しい気持ちをいつも持っていました。そもそも、対象会社への質問数に制限があって、質問すらさせてもらえないことも多い(インタビューなんてもっと望み薄です)。

しかし、今となっては、大幅に削られることは当然だとわかります。問題点が1から100まで全部書いてある本みたいな報告書なんて、価格や契約書の提示が迫っている経営陣や戦略投資部門が読むわけない。いや、100ページに抑えたところで、彼らはなお読んでいないかも…
論点をもれなく抽出することはしても、レポートはもっとメリハリをつけて書くべきだったなと、10年の時を経てなお反省しております。

フォーマットを指定するFAも

FAによっては、DDレポートのフォーマットを統一するところがあります。専門家の方々には恐れ多いことかもしれませんが、読む方としてはありがたい。論点・リスクとその重要度、打ち手(価格/契約/PMIのいずれの問題か)が表形式でまとまっているタイプをよく見かける気がします(FAのフォーマットなのかも)。そして、専門家のみなさんがリストアップしてくださったレポートをもとに、契約書に落とし込んだり、PMIの計画を作る作業をしていきます。

法務DDレポートでは問題はすべて指摘されない

さて、そういうわけで、法務DDでは、発見されたけれどもレポートに上がっていない問題というのが結構あります。ありがちな論点は、次のようなもの。

  • 登記懈怠(ときに選任懈怠から)
  • 特別利害関係人の議決権行使や議長(株式譲渡承認のケースを除く)
  • 定款の法改正未対応
  • 監査役の監査権限の未登記
  • 会計監査権限しかない監査役の取締役会出席・定時株主総会での未報告
  • 契約書の不存在
  • 内部通報や懲戒処分の内容

私は、こういったところに、対象会社のコンプライアンス意識や管理能力が浮き彫りになっていると感じるのですが、戦略投資部門からすれば、「前提条件とするなり、PMIでなんとでもできる」と思っている部分でしょうから、専門家としても指摘するだけ無駄と思っていらっしゃるのかもしれません。あるいは、会社の法務部門だってデータルームへのアクセス権を持っているのだから、それくらい見ているだろうということかもしれません。

しかし、企業は、専門家からご指摘がない=問題がないとインプットするので、「細かいけれどこんな問題点もあったよ」と一言教えていただけるとうれしい。

ぜひクライアントに聞いてほしい

最近は、小さな企業を買う場合でも、スコープを絞ってでもDDしましょう、という論調が目立ちます。それはいいとして、DDにかけられる費用も限りがあるし、そもそも読めないレポートをもらっても仕方ありません。

だから、「当事務所のDDレポートには松竹梅コースがあって、松は本レベルの分厚さのレポートにエグゼクティブサマリー、梅は最低限のリスクと打ち手を箇条書き。竹はその中間です。どれがいいですか?オプションも相談に乗ります。」みたいなご提案を、最初に依頼するときにいただけたらうれしいです。そうすれば、レポートをもらってから「こんな読めないレポート書いてもらうのに1,000万円払うのか…」みたいなギャップも生まれないかと。