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大阪で働く法務パーソンのはなし

機械翻訳と格闘する若手へ

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久しぶりに大部な英文契約の和訳依頼があり、若手とともに機械翻訳と格闘しました。

機械翻訳の登場で劇的改善?

機械翻訳の精度に満足する声も聞きますが、結論を言うと、英文契約に関して、ある程度のスキルがあれば、機械翻訳によって短縮できる時間は、そんなにないと感じています。機械翻訳の誤訳や表記のゆれを直すのに時間を取られてしまう。英語力に自信がない新人には、いいリードになるところもありますが、変な訳出を覚えてしまいそうな不安もあります。

機械翻訳で改善されたこと

私のチームは、普段はほぼ100%日本語で仕事をしており、英文契約に触れる機会は滅多にありません。よって、このようなタイプの仕事は、経験値からして私ひとりでやるのが最速ですが、そんなことをしていてはいけないので、今回は、機械翻訳→若手→私とチェックすることに。

この数年で機械翻訳が普及したのは、とてもありがたいことです。数分で完了するのに、おおよその内容が把握できるから。
というのも、私たち法務は、そこそこ難しい英語が読めるということで、「和訳してほしい」というだけの依頼がちょくちょくきていました。投資先の事業報告とか…背景もその世界のことも知らない資料の和訳は、うまくできないというだけでなく、それについて私たちがコメントすることもないので、翻訳マシン化して、やたら時間だけ取られる、まったくモチベーションを奪ってしまう好ましくない仕事でした。それが今なら、機械翻訳に通せばとりあえず満足してもらえます。原文を理解しない人に誤訳かもしれないものを提供することに、良心がまったく痛まないわけではありませんが…

英文契約を和訳するときに若手にいうこと

ともあれ、英文契約では機械翻訳の力はまだ頼りきれません。人力で格闘しないといけないのですが、英語に自信のある人でも腰が引けるのが英文契約。

この点、精神論的なものも含めて、新人に英文契約との向き合い方を指南してくれるものは、書籍・雑誌やBUSINESS LAWYERSといったポータルサイトなど、結構あります。
でも、うちの若手はあまりそういったものを見ないというか、最初の最初としてはこれらでは自分ごと化できないようで、私はまず、次のことを伝えています。

  • 定義された用語に注意しよう(定義されたとわかるように、かつ一貫した表現を使おう)
  • 曖昧さを受け入れよう(訳せないのは当然だ)

最初の「定義された用語に注意しよう」ですが、中堅にさしかかろうとしている人の和訳でも気になってしまう(私も完璧ではないかもしれないが…)。私がやたら敏感なのかもしれません。

たとえば、「the Share」は「本件株式」か「本株式」か、どちらかに統一しよう。なかには、通常の用語でも「Share」と「share」で違う意味が付されることもあるから、capitalizeされているかどうか注意深くみよう、ということです。
ここさえしっかりできていれば、英文契約の翻訳はかなり精度が高くなると信じているのですが、意外と難しいらしい。「Completion Date」が定義されているのに「Completion date」が出てきたら混乱してしまうレベルまで敏感になってほしいです。

続いて、「曖昧さを受け入れよう」ですが、たとえば、株式譲渡契約だと、株式に何ら「負担」がないというくだりで、「負担」とは「mortgage, security, lien, charge, pledge, hypothecation, ...」と、どの日本語をどれにあてればいいのかわからないことが起きます。日本法の契約を訳しているわけではないから、ぴったりの訳などないと曖昧さを受け入れ、どこかで落としどころを見つけるしかありません。"valid and in effect"はまとめて「有効」でいいだろう、とか。
ただ、できるだけ、同じ契約の中では、同じ単語に同じ語をあてる(例:mortgage=担保)ようには気をつけています。

私が英文契約を和訳することに気をつけているのはこれくらいで、あとは、良い訳にたくさん触れればかなり上達できます。

機械翻訳に改善を期待するところ

定義された用語は統一して使ってほしい、定義されていることがわかるようにしてほしい、という私の願いは、若手にはハードルが高いようですが、機械翻訳にもまたハードルが高いらしい。

先日見た契約書だと、機械翻訳は「the Company」を「当社」としたり「本会社」としたり「「当社」」としたり。なんでもいいから統一してほしいし、それくらいすぐにできるのではないかと思うのですが、難しいんでしょうか。ほかにも、「および」「及び」が混在していたりもするので、これももう機械翻訳では「ひらがな統一」とセットすればいいのではないか。

機械翻訳って本当に「機械的翻訳」ではないんですねぇ。