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大阪で働く法務パーソンのはなし

顔を合わせないクロージング

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このたび、初めて子会社を手放すことになりました。事務所時代も含めて、これまで買主としてしかM&Aに参加したことがなかったし、ご時世的にもこれまでとプラクティスが違ってハラハラドキドキしています。

顔を合わせないクロージング

契約交渉は比較的スムーズでしたが、戸惑っているのは「クロージングをどうするか」。

売却するのはX国所在の海外子会社であり、在籍する当社社員も完全に転籍してしまうので、クロージングを当社代表として一任するいうわけにはいきません。しかも、買主はY国法人であり、代表者もY国居住者という3国にまたがるクロスボーダー案件な上、ご時世的にクロージングのために本社から人を派遣することも、買主から来てもらうこともできません。
イデアのひとつは、それぞれ代理人として現地弁護士をアサインしてクロージングに参加してもらうことでした。そして、もうひとつの、そして採用しようとしているアイデアは、顔を合わせないクロージング。果たしてどうやるか。

クロージングとは?

通常、クロージングとは、対価を支払い、株主名簿の名義を書き換えることが最重要ミッションです。もちろん、商号や役員を変更したり、重要書類を引き渡したりすることも重要ですが、その辺の前提条件は放棄したり後回しにできても、対価支払と名義書換は放棄できません。

今回の対象会社は、株券発行会社で、名義書換には、株券に加えて売主と買主がサインした所定書式が必要です。もちろん、対価もあるし、他人への譲渡なのでクロージング時に引き渡すべき一定の書類もあります。これらを手交以外の方法でどうデリバリーしたものか、数週間にわたって考えてきました。

①株券

日本なら、株券こそ最も大切なクロージング時の引渡書類と思われ、これをクロージングに先立って相手に渡してしまうことは考えにくいですが、今回は、海外子会社で名義書換には必須だし、対象会社にはSecretaryが付いているということで、先に対象会社に送ってしまうことにしました。

②名義書換用の所定書式

これが最もネックで、本来は一枚の用紙にそれぞれがサインしなければならないのですが、それぞれが別の用紙にサインしてSecretaryに送れば良いのではないか、というアイデアが出されました。しかし、あえなくSecretaryに却下される…次なる手段は、どちらか(買主)がサインして、他方に送り、対価の支払いを確認してサインしたものを返送すれば良いのではないか。子の場合、名義書換すなわち譲渡の効力発生が数日遅れてしまうのが難点です。

③対価の支払い

海外送金だと着金までに数日要する場合もあるので、クロージング日に着金するように手配するのはリスクがあります。そこで、クロージング日には送金指示書を示すことで対応する予定です。

④その他の書類

その他のクロージングのための書類(取締役会議事録のコピーなど)は、当日はPDFでしのぎ、後日原本を送付する予定です。なお、日本では電子契約の導入に足踏みするのに、本件では株式譲渡契約は、サインページのPDF交換で済ます予定。このギャップよ…

結局相手との合意

クロージングセレモニーをするほうが普通と思っている私にとって、「顔を合わせない」クロージングは邪道で大丈夫なのかしら?と思ってしまいますが、子会社の価値なども総合的に勘案すれば、こういった方法で良いのでは?と、今回は自分たちサイドの弁護士から提案を受けました。幸い、買主も「柔軟にやりましょう」と言ってくれ、コロナ禍で海外出張することはありません。これが、もし大型の案件なら、こうはいかないのでしょうが…

総括も必要

まもなくクロージングですが、クロージング時にローカルスタッフに対して何かメッセージを発したほうがよいのでしょうか。そうしたほうがよいのではないかとは思うものの、しなくてもよいくらいにしか当社グループ化できていないから、今回の事態になったともいえます。。

当社では上手く育てられなかった事業なので、クロージングが終われば、総括もしなければなりません。やはり、海外事業は難しいですね。