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大阪で働く法務パーソンのはなし

準拠法どうする?@アメリカ

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当社は、これまでは、アメリカに直接進出しておらず、私はアメリカの契約実務から逃げおおせてきました。しかし、新規事業関連で海外の契約が増えており、アメリカもこれに漏れず。そして、「準拠法はどこの州にすればよいか?」という質問を受けてしまいました。

設立準拠法はデラウェア州 でも本拠地は別の州

具体的な質問はこうでした。

デラウェア州法人と契約するのだけど、契約書の準拠法はどこにしたらいいだろう?先方のビジネスの本拠地はフロリダ州。でも、弁護士をアサインしようと思ったら、事実上ニューヨーク州になるよね。契約のレビューをお願いしている弁護士には、「デラウェア州の裁判はちょっと面倒だから」と、フロリダ州ニューヨーク州をお勧めされたんだけど、どう思う?」

質問者が相談している弁護士は、日本とニューヨーク州で資格を持っている方だそうなので、「デラウェア州の裁判はちょっと面倒」は眉唾だな…と思って聞いておりました。

アメリカで会社といえばデラウェア州

アメリカで会社といえば、やはりデラウェア州法人ですよね。昔、在留資格認定証明書交付申請をする仕事をしていて、何回、デラウェア州法人のCertificate of Good Standingを和訳したことか。"The First State"をどう訳したものか悩んだものです(しかし、どう訳したかは忘れました…)

Wikipediaによれば、アメリカの上場企業の50%、フォーチュン500企業の64%、100万社が設立準拠地又は本社をデラウェア州に置いているのだそうです。

なぜデラウェア州法人が多いのか?Wikipediaでは、以下の要因が挙げられていました。

  • 設立・解散が容易
  • 判例が多く予測可能
  • ペーパーカンパニーも可(秘匿性を保てる)
  • 司法が法人の裁量を広く認める傾向

法務としては、裁判の予測可能性が重要ですが、会社が多いから裁判例も豊富になり、予測可能性が高くなる、というニワトリが先か卵が先かという話のようにも思われます。

準拠法もやはりデラウェア州

さて、アメリカの法律事務所で勤務した経験のある弁護士のこの質問をぶつけてみたところ、設立準拠法だけでなく、契約の準拠法も、最も多いのがデラウェア州、ついでニューヨーク州だとのことでした。その理由は、やはり裁判例が豊富で、かつ安定しているからということです。
この「裁判例が豊富で、かつ安定」というのは、会社法に限らないということですね。確かに、会社が多い=紛争が多いはずです。裁判所の判断が日本の感覚に近いという説も(M&Aの表明保証責任について)。
よって、冒頭の質問には、「デラウェア州が予測可能性が高くておすすめです」という回答になりそうです。

コストは?

ちなみに、コストだけで考えた場合には、どの州を選択しても大差ないのでは?と想像しています。

日本法の弁護士でもニューヨーク州カリフォルニア州の弁護士資格を持っている方は結構いらっしゃるので、アクセス容易性で考えるとそれらの州に分がありますが、本当に争うなら現地の事務所にお願いすることになります。信頼できる事務所となると、アワリーチャージが1,000ドル超の日本にも支店を持つアメリカの大手事務所か、付き合いのある日本の法律事務所に紹介&サポートしてもらうローカル事務所(=日本の事務所分がオンされる)となりそうです。ローカル事務所でも1,000ドル超えるという話も聞きますし、評判の良い弁護士となれば、いずれにしても、日本の感覚とは違う額になりそう。

日本の弁護士費用でも「高いな」と思うことがありますが、アメリカの場合、さらに桁がひとつあるいはふたつ違うといいます。そのような費用も勘案すると、裁判で争うより和解したほうがトータルのコストが安くつくという、なんとも残念な結果に。

とにかく、紛争には巻き込まれないのが一番です。