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大阪で働く法務パーソンのはなし

取引先が音信不通になったら

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年の瀬が迫ってきました。当社では、年に1回くらいは取引先・顧客が破綻(破産)してしまいます。自主廃業も年に数件は存在します。
それらを失うことはもちろん辛いですが、破産や自主廃業は、会社(管財人)と連絡がつく分、まだマシです。

困るのは、取引先・顧客が諸般の事情で音信不通になる場合。また増えてくる季節です。

訪ねたら「もぬけの殻」

たまにある相談で、「取引先を訪問したら、もぬけの殻だった。据え置いている当社機械を引き上げたいけどいいか」といったものがあります。ほかにも、「顧客がお亡くなりになって、親族と連絡が取れない」とか。

現場の担当者としては、未払の商品については取り上げて返品扱い(売買契約の取消し)とし、あるいはレンタル中の機械もさっさと引き上げて次の利用に回したい。当然です。

無断では入れない

担当者は、すごく真面目な顔で、「鍵がかかっていないから踏み込んで回収してきていいか」「鍵を壊して入っていいか」と聞いてきます。
いいわけないんですけど、しょっちゅうある事件ではないので、担当者も冷静を失うみたいです。

当社機械については、使用貸借契約を締結していて、一定の事由が生じたら無催告解除できるようになっています。音信不通(支払停止なども含む)もその事由のひとつなので、解除通知を送って使用・収益権を取り上げ、機械を撤収すればOKなのですが…

  • 連絡がつかないから意思表示ができない。
  • 他人の建物に無断で侵入することはできない。

といった理由で、目の前に当社の機械があるのに手も足も出ない状態になることもままあります。

最悪あきらめる

当社の機械は、敷地内とはいえ外にある場合もありますし、建物内にあることもあります。外にある場合は、仮に連絡が取れなくても撤去してしまうこともあります。使えない状態で放置しておくのも危険であるとか、物件所有者に迫られてやむなしといった理由からです。

困るのが建物内にあるときです。これまで、建物に手紙を差し込んだり、取引先や代表者の住所に内容証明配達証明で通知を送付したりしたこともありましたが、それでも届かないことがあります。代表者の住所変更の登記がされていないのかもしれないから、住民票の請求を視野に入れることも。

それでもコンタクトができない場合、施設管理者が別にいれば、事情を説明して解錠してもらって作業することもありますが、そうでなければ万事休す。あきらめるしかありません。
当社の機械は数十万円くらいの価値なので、経済的にそこまで痛いわけではないけれど、塩漬けにしなければならないのはもどかしいです。

トラブルにも用心

では、連絡が取れるまで放っておけば問題はないのかというと、そうでもなかった事件があります。

以前、当社の機械が据え付けられたまま音信不通になった取引先があり、担当営業所は放置していたらしいのですが、ある日、その取引先から不動産を買い受けたと名乗る人物から唐突に連絡があり、「オタクは不法占有しているから損害賠償を払え」と請求を受けたことがありました。
登記事項証明書を確認すると、確かに数ヶ月前に所有権が移転していて、当社は所有者の了解なく物を置いている状態になっていました。とはいえ、所有権移転の事実を知らなかったし、知らなかったことについて落ち度もないので、損害賠償責任はありません。結果として、所有権移転後は、機械のスペースについて、不当利得を得ていたということになろうかと思うので、その分の賃料を支払うと申し出たところ「安すぎて話にならない」と言われ、その後音沙汰がなくなりました…不当な要求に応じずに済んで良かったのかもしれませんが。

結局、普段からのモニタリング

私たち法務部門の耳に入るのは、音信不通になってからなのですが、話をよく聞いてみると異変は結構前からあることも多いです。支払が数か月前から遅延していたとか、営業が停止していたとか。

現場のみなさんには、普段からしっかりモニタリングしてもらいたいのですが、何が「危険のサイン」か、見逃してしまう人も多いのかもしれません。