前回の記事で、危険のサインをキャッチしきれない担当者もいそうだということを書きました。
そこで、そのギャップを解消するための研修をすることになりました。
こんな取引先は危険だ
債権回収のセミナーなどでよく言われる危険のサインは、次のようなものです。
経営者が急遽変わった
中小企業の場合、人物・センスとも優れた経営者で持っている会社が多く、十分な後継者育成ができないまま経営者が交代した場合、業績が急激に悪化する可能性があります。
支払サイトの変更依頼があった、保証金の取り崩し依頼があった
支払期日を延ばしてほしい、保証金を未払債務に引き当ててほしいといった依頼があれば、資金繰りに窮していることが推測できます。ここまできていたらかなり危険水域です。
社員が辞めていく、会社の雰囲気が良くない
会社の雰囲気は業績に連動するところがあるので、業績が芳しくなければ雰囲気も悪くなり、社員も辞めていくという経験則からです。また、給与の遅延が生じていたりして社員が去っている可能性も考えられます。
ミスが多い、サービスのクオリティが低い
優秀な社員が去り、十分に育成もできないため、ミスが多くなり、サービスのクオリティも下がるという理屈。当てはまらないケースもあるかもしれませんが、当社の事業の場合は、これが結構当てはまります。
経営者が不在がち
都市伝説のような気もしますが、金策に走っているからだ、という説明がよくされますね。債権者に合わせる顔がないから逃げている、ということかもしれません。
危険な取引先があったら情報整理とモニタリング
当社では、危険な取引先がある場合には、情報整理とモニタリングを強化するように伝えています。実際、営業本部では、毎年取引先を5段階評価して、最低評価のところは今後のあり方を検討しているらしい。
情報整理というのは、締結している契約、当社が押さえている担保、付与している与信、支払状況などを今一度最新化することを意味しています。取引先情報が一元管理されていればいいのですがさにあらず。このあたりはDXで改善されることを期待です…
モニタリングはそのままですね。当社の場合、事態によっては、取引先の未払を立て替える可能性もあるので、取引先の他社への支払状況もできれば情報収集したいところです。
以前も書いたことがあるのですが、保証金や定期預金の場合は、現金を押さえているので担保にとっている額=与信でよいです。しかし、不動産に根抵当権を設定している場合、本来は評価額=与信とすべきところ、いちいち鑑定をとったりすることもないし、変動するものなので、適正な与信を設定することは結構難しい。そこで、限度額=与信にしているケースも結構あるのではないでしょうか…
当社でもそういう事例があって、何千万円もの限度額を設定していたけれど、任意売却してみたら数百万円にしかならなかった…という悲しい顛末になったことがありますのでご用心。
取引先の異常を知ったら経営者に伝える義務があるか?
現場の担当者は、取引先に出入りして、経営者のみならず社員とも親しくなります。コミュニケーションをとるうちに、給与の支払遅延が起きていたり、業績の深刻さを知ることがあり、それは社内で「生の情報」として共有されます。そして、ときに、「僕たち、今度みんなで辞めようかと相談しているんです」といった仰天情報を入手することもあるそう。そんなとき、取引先の経営者にその事実を伝える義務はあるか?という相談を受けたことがあります。
さすがに「義務」はないだろうという話ですが、「伝えてもいいか?」となるとどうでしょうか?当社としては、取引先を失いたくないので、経営者に働きかけて翻意を促したい気持ちありますが、担当者を信じて打ち明けてくれた取引先社員たちを裏切ることになります。直接伝えることは控えて、間接的に待遇見直しなどを提案するといったことが取りうる策でしょうか…
ちなみに、顧問弁護士には、「今後の取引に影響があるなら伝えてOK」と言われています。
債権回収リスクを抑えるために問屋を活用する
同業他社の多くは、債権回収リスクを抑えるために、中小企業とは直接取引をせず、卸を通じて商品を販売しているようです。この場合、会社としてはリスクを低減できますが、取引先からみた場合、中抜きが入る分、商品が割高になります。
また、間に人が入る分、生の情報が取りづらいですし、取引先との信頼関係構築に支障があるという判断で、当社は、卸はあまり重用せずにきました。これが、与信管理を煩雑にする理由です。管理する会社の桁が変わってきますからね。
債権回収のリスクを低減するほか、物流面でも問屋(総販売元)が入っていると心強いのですが、薄利多売の商売ではなかなか難しいのが現実です…