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大阪で働く法務パーソンのはなし

懲戒処分で揃える資料

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「医療非常事態宣言」が出て、外出自粛となっている大阪。
当社も建前上は、「大阪府下の事業所は、原則全員在宅勤務」としていますが、私は、先週金曜も本日も出社です。大阪だけの話ということもあって、来客は減っても、電話や荷物はいつもと変わらず、出社してすべき仕事に変化がない。結果、総務の手伝いをするうちの部署の出社率は、ほとんど変えられませんでした*1

電車通勤の社員の話によれば、電車の混み具合も全然変わらないのだとか。

さて、先週、懲戒処分のことを書きましたが、今日も備忘録で資料づくりについて。

懲戒処分のための資料

当社では、懲戒処分を行うために、次の資料を作成します。

  • 報告書
  • 懲罰委員会資料(事務局からの処分提案)
  • 対象者への処分通知

非違行為発覚後、処分が決まるまでは、対象者は自宅謹慎となり、対象者や関与する業務を宙ぶらりんにおいてしまうので、処分決定までは、結構タイトスケジュールで進んでいきます。そして、「役割分担」というものがあり、当社の場合、報告書は調査を行った監査部門が作成し、その他の資料は委員会事務局である人事部門が作成するのが慣わし。

各書類の構成

当社では、各書類の構成は、次のようになっています。どこでもこんな感じでしょうか。

まず報告書。調査対象者の氏名・役職といった属性、発覚の端緒、調査期間(スケジュール)、確認した資料といった導入部分があって、調査結果と総括です。

次に懲罰委員会資料。調査対象者の氏名・役職といった属性、非違行為内容、懲戒処分案とシンプルな構成です。委員会はかなり短時間で実施されますし、添付資料として報告書もつけるので、かなり簡潔な内容としています。

最後に、処分通知。意外とネット上にサンプルが転がっていて、概ね以下のような感じでしょうか。

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委員会資料もそうですが、処分理由では、非違行為が就業規則上のどの懲戒事由に該当するかまで必ず明記します。

職業病現る

処分通知は、基本的に通知をする人事部門の人間と対象者しか見ないから、報告書・委員会資料・処分通知という一連の書類をすべて見る人はほとんどいません。しかし、職業病か、統一感がないと私はとても気持ち悪いです。非違行為の事実の順番とか、表現の仕方とか…

また、沙汰といえば、法務としてはどうしても判決文をイメージするから、監査からの報告書が事実と評価に分かれていないと、修正したい衝動に駆られます。事実は、証拠・証言から出たものか、本人の供述内容なのかしっかり書き分けましょうよ…むしろ、私に書かせてほしい。。「けしからんことをした」というのは明白でも、「どうけしからんのか」を書くのは結構難しく、やはりここは法務の人間が書いたほうがいいんじゃないかと。実際、今回のケースでも、「この行為は何が問題なのか」で、弁護士とも議論になってしまいましたし、道義的に許せなくても、規定違反ではないから処分事由の重大度が劣後してしまうということもありそうです。

さらに、前述のとおり、当社の報告書では、総括として最後に調査者の所感が書かれるのですが、必要性に疑問があります。「反省の態度が見られない」「管理職としてあるまじき行為」とか、事実調査を旨とする監査部門がいうことではなくて、委員会で評価することではと。

紛争に備えてきちんと事実を書く

コンプライアンスといえば…の郷原先生は、不正は「ムシ型」「カビ型」に分類でき、日本では「カビ型」が多いとおっしゃいます*2
とはいえ、ハラスメントや経費の虚偽申請(旅費交通費ちょろまかし)など、日常で起きる不正・非違行為は、「ムシ型」、その人の問題であることがほとんどです。でも、不正の三要素「動機」「機会」「正当化」のうち、「機会」は、会社によるところが大きい。チェックがザルだから不正ができてしまうわけで。

そんな事情もあってか、事案の対応に当たっては、当事者にそれぞれ思惑があって、「ここは報告書に書いてほしくない」とか言い出す人が現れます。

しかし、重い処分となれば、将来、争いになるかもしれないし、懲戒という重い処分を課すからこそ、報告書にはある程度詳細に、第三者でも事案の概要・処分の妥当性がわかるよう事実を記載すべきです。報告書作成者の良心と社内政治力がかち合うところですね…

*1:なのに、メディアでは、「自粛要請を受けて原則在宅勤務になった会社」などと取り上げられるのだからまったく…

*2:一人がとんでもないことをしでかすのが「ムシ型」で、過去何十年にもわたり、もはや誰が悪いとかではない「会社ぐるみ」のものが「カビ型」。「ムシ型」は駆除しやすいが、「カビ型」は駆除が困難という意味でもある。