Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

事業承継で事業譲渡

f:id:itotanu:20201208094709p:plain

当社には、俗に中小企業・零細企業とよばれる規模のお取引先が相当数あります。ご多分にもれず、経営状況の悪化や後継者不足で、毎年数社が廃業・破産していくことは、ここでも何度か書きました。

経営者がいなくなっても、事業はそこにあり、得意先も従業員もいらっしゃるので、当社がその受け皿となることも多いです。

本体が受け皿になることは難しい

取引先が事業をたたむ場合、その取引先が持っていた得意先や従業員を当社グループや他の既存の当社取引先で分け合えれば簡潔ですが、そうはいかないことがままあります。特に地方は、そのエリアにはその取引先しかないというのがむしろ普通。そして、そういうエリアこそ苦しい経営を迫られています(皺寄せは主に従業員の給与等の待遇に…)。
そのような取引先は、たたまれると既存のどこかに振ることはできず、また、当社の給与水準だと全く採算が取れません。

さてどうするか。
案①は、そのエリアを捨てることですが、そんな大胆な判断ができるほど、当社は肝が据わっとりません…一応、贔屓にしてくださる得意先もありますし。そうすると、案②として、当社で引き取るしかありません。前述のとおり、本体では受けられないから、そのエリア用に子会社を作ることになります。
エリア別販売子会社は一般的な手法ですよね。その昔、当社も各地に販売子会社を持っており、効率化の名の下、一度合体させています。なのに、再びエリアごとに販売子会社を作り出すという、まさに歴史は繰り返す状態。軋轢を承知で統合した苦労はなんだったんだ?という…

事業譲渡が逆にいい?

ある会社の事業を譲り受けようとする場合、法務としては真っ先に会社分割が思い浮かびます。なぜなら、譲受事業の得意先はかなり数があり、律儀に特定承継なんかやってられないから。それに、事業譲渡だと消費税もかかるから、税務的にもあまりうれしくないんじゃないの?と思うのです。

しかし、当社は好んで事業譲渡方式を選びます。最初の相談を受けているときは、「ある会社の事業を譲り受ける」という意味で「事業譲渡」を使われることも多いから、会社法上の事業譲渡・合併・会社分割がごっちゃだなぁと思いながらとりあえず聞きます。その上で、いくつかの手法があって、会社分割がいいと思うけど?と提案するのですが、明確に特定承継がいいと言われる始末。
理屈としては、「実際、体が変わるんだから、契約だって再締結した方がいいでしょ?」と。理にかなっているともいえますが、時に数千件あるかもしれない契約について、個別承諾・再締結作業をするなんて、気を失いそう…「NOと言われたら、承継できないんですよ。あとのために、承諾を得たことを記録に残しておく必要もありますよ。それでもいいのですか?」と聞いても、「ま、先方が何か言ってきたらそれまででしょ」という。なんなんだ、この達観は。

消費税と印紙税

合併や会社分割のような包括承継だと消費税は課されない、印紙税は、第5号文書にあたるからどれだけ大規模でも契約書や計画に貼付する印紙は4万円。
事業譲渡の場合は、課税資産の譲受けには消費税が課され、印紙税も、第1号文書にあたるから、金額に応じて累進課税される。
という程度の税務の知識しか持ち合わせていないのですが、これだと事業譲渡の方が税務メリットがないように見えます。

財務チームの話だと、印紙税がかかるのは、対価のうちの「営業権」部分だけで、それがゼロなら印紙税はかからないということなのですが、そもそも「営業権」ってなんだ?という話ですし、事業価値をDCF法で計算し、これで対価を決めた場合に「営業権」をどう算定するのか。印紙税は、契約書の行間や背景は読んでくれないから、契約書に「●●事業を●円で譲り渡す」としか書いてないと、全額契約金額にされる可能性があるんじゃないかと思うんですけども。。

全員集合は歓迎すべきだけど

以前なら、こういった再編事案は、(現場を知らない)極めて限られた人間だけで進めて、法務も先方との話がついた後に「話はついたから契約書だけ見て」みたいな感じでしか関与できなかったのですが、最近は、輪郭が固まってきた段階で、関係部門が集まって議論するようになってきました。法務と財務で問題点の認識合わせができるし、それを推進部門に聞いてもらうこともでき、この傾向自体は、とてもいいことだと歓迎しています。

がしかし、、いろんな視座から参加するので、みんなの関心・視点はバラバラもいいところ。優先順位をつけるのも一苦労です。