現場から、「収益認識基準の変更について、法務の意見が聞きたい」と声がかかりました。
収益認識基準の変更
民法改正対応で気持ちばかり焦っていた1〜2年前、「民法改正の次には収益認識基準の変更が迫っている!これも意識して契約書ひな形を見直す必要があるぞ」と、とある雑誌記事で読み(脅され)ました。
そのときは一瞬勉強して、財務部門にも確認したけれど、「法務が気をもむ必要はない」と一蹴され、その言葉を鵜呑みにしてすっかり忘れてしまっていました。急ぎ監査法人系のサイトなどを見てみると、一言でいえば、「売上の記録ルールが明確になった」ということですね。
新しい基準では、以下の5ステップに従って収益を認識するとのこと(第17項)。
- 契約の識別
- 履行義務の識別
- 取引価格の選定
- 履行義務への取引価格の配分
- 履行義務の充足による収益の認識
ある契約で2つの履行義務があった場合(例:①目的物の引渡し、②保守)、取引価格を各履行義務に配分し、充足度に応じて売上を認識するということで、要は、「履行義務とその取引価格を、できればごっちゃにしないでわかりやすく契約書に書いておいてほしい」という要請に読めます*1。
新しい収益認識基準が適用されるのは、2021年4月以降開始する会計期首からで、最早で3月決算の会社が来年4月から。
消化仕入とは
今回の問い合わせは、「消化仕入」に関するものでした。「消化仕入」は「売上仕入」ともいい、代表的な例が百貨店だそうなのでこれを例にとると、百貨店に陳列されている商品は百貨店の在庫ではなく、(百貨店から見て)仕入先のもの。そして、お客さんが商品を買った瞬間に百貨店が仕入先から仕入れたと擬制して、仕入先→百貨店→お客さんという売買がなされるものをいいます。百貨店からすれば、在庫リスクを負う必要がなく、また、委託販売とは違って手数料収入でなく客への売値で売上が立つのでトップラインの見栄えがいいというメリットがあるのだと思います。
当社でも、「売上にしたい」という理由で、一部の得意先との間で消化仕入を採用しています。よくわかりませんが、どうやらオペレーションはとても面倒くさいらしい。そこに、収益認識基準の変更が。
消化仕入と新しい収益認識基準
結論を言うと、百貨店のポジションにいた者は、これまでは顧客への売値(総額)を売上と計上できたのに、これからは、手数料としてしか計上できなくなってしまいます(収益認識に関する会計基準の適用方針第40項、設例30)。
総額を売上に計上するには、顧客に提供する財・サービスを顧客提供前に自己が「支配」していることが必要で、「支配」しているといえるには、在庫リスクを負っているとか、価格決定の裁量権があるといったことが指標に挙げられているので(同第47項)、消化仕入で総額を収益認識するのは難しそうです。
消化仕入をやめさせてもいい?
前置きが長くなってしまいましたが、相談は、「というわけで、消化仕入でも、得意先は売値を売上計上できなくなる。こっちも消化仕入はイレギュラーで面倒だから、これを機に消化仕入はやめてほしいのだけど、それでも消化仕入を強要してくるのは不当ではないか。先方に独占禁止法上問題あるといって拒絶してもいいか。」というものでした。ちょっと勉強したのに、収益認識基準は関係ないじゃないか…
特定の形式での取引を強要することが拘束条件付取引といえるか、あるいは優越的地位の濫用といえるか?という話ですが、拘束条件付取引って、「…相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」で、事業活動を不当に拘束する」とは思えません。「オペレーションが面倒くさい」というのは、こちらの都合でしょうよ。それに、そもそも論からすると、「公正な競争を阻害するおそれ」もないはず。また、得意先→当社への優越的地位の濫用についても、公正取引委員会は、得意先が弱い立場にあるという前提で、指導や勧告を繰り返しているので、なかなか難しいのではないかと思われます*2。
「標準的な取引でない面倒な取引を強要してくるなんて、不当だ!」という発想自体、どうかと思うのですが、ある業界団体の発案だそうで、二度びっくりです。それこそ、他の事業者と共同して一定の取引を求めようしているのだから、こちらこそ独占禁止法上の問題を検討すべきではないのか…