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大阪で働く法務パーソンのはなし

【本】電子契約導入ガイドブック[国内契約編]

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昨年、法務系の本をほとんど読んでいなかったことが発覚したので、「これはまずい」と今年は年明けから頑張って読んでいます。

そして、「なぜ、出版後すぐに読まなかったのだろう」と激しく後悔した本に出会いました。商事法務さんに「もっと宣伝して!」と文句を言いたいほどに…

出版当時、手に取らなかった理由

昨年は、押印業務がかつてないほどにクローズアップされて「脱ハンコ」「脱紙」がスローガンになり、「電子契約」というワードが法務でないビジネスパーソンにも広く知られるところになりました。
しかし、多くの法務パーソンは、コロナ禍前から問題意識をもって電子契約の勉強もしてきたと思います。私もその端くれなのですが、これが災いして出版当時、本書を手に取らなかったんです。その理由は、次の3つ。同じ理由で敬遠された方がいらしたら、ぜひ一度手に取られることをオススメします。

  • 電子契約・電子署名の仕組みや違いについては、あらかた理解できているから読まなくていいと思った
  • 執筆陣の所属先が大企業で、「導入ガイド」と言われても、どうせうちの会社じゃ参考にならないだろうと思った(し、後半の弁護士の先生方含めて、この分野での露出が多い方々なので、やや「お腹いっぱい」感があった)
  • 同時期に近しい分野(電子契約・DX)の書籍が複数発売されていて、他の1冊を選んだ結果、これはいいかなと思ってしまった

本書がコミックサイズでしかも200ページ足らずと知っていたら、とりあえず手に取った気もするので、コンパクトさをもっと推してほしかった…*1

中の人×専門家の構成で電子契約・電子署名の復習にも◎

本書は、全部で4章からなりますが、大きくは前後半に分けられ、前半は、どうやって電子契約を社内に導入していくのか、何を見て事業者を選定するのか、などが「中の人」ならでは目線で書かれています。後半は、弁護士・税理士による法的な論点や法令の解説となっていて、前後半のつなぎに公開鍵暗号の仕組みの解説があります。

全体として平易・簡潔にまとめられており、複雑な仕組みや法令の復習をしたいときにも良さそうです。特に電子署名の仕組みや分類は、繰り返し勉強しないとすぐに忘れてしまうので…

「トライアル」を盾に社内規程を突破する

電子契約・電子署名の仕組みや法令の解釈について、本書から得た気づきや学びはまた別の機会に整理するとして、読んでいて面白かったのは、Chapter 1の3社による座談会です。*2

 

私の経験上、システムの導入にあたって、まずマニュアルを完成する、社内の関連する規程を修正するなど、すべてお膳立てをした上で導入しようとするとつまずきます。ましてや、この機会に稟議の仕組みも変えるなど手を広げてしまっては、なおさらうまくいきません。あまり煮詰めすぎないことが大事だと思います。(略)実際にシステムを運用する中で、その状況をもとに規程をどう変えていくかという順序で考える方が結果的に成功するのではないかと感じています。(P.6)

「トライアル」をマジック・ワードにして、とりあえずやってみるほうがいいとのこと。電子契約の導入を考える企業は、あれもこれもやらなければ!と気持ちばかり焦ると思うので(私がそうです)、そっちの道を進んだらコケるという警告はありがたいです。また、導入を希望する部門から小さくスタートすることも推奨されていました。前提には、自社がどんな契約をどれくらい締結しているのかを事前にすべて把握することは不可能という諦めがあります。確かに。

全面移行は夢のまた夢?

電子契約を導入するにあたり検討すべきことに、対象とする契約の範囲があります。サントリーグループさんやZホールディングスさんが全面移行を目指されていることが知られていますが、本書に登場する企業はそうではありません。現時点の対象は秘密保持契約と業務委託契約だけというところもあり、導入企業でも契約書全体に占める電子契約のカバー率は低そうという現実を垣間見ました。

「やっぱり重要契約はハンコ&紙だよね」という価値観は、もうしばらく残るのか…

コンパクトさが◎なので総務・システムの方にオススメ

法務パーソンにとっては、後半の法的な理解も大変重要ですが、前半部分(ページ数にして約70ページ)は、総務やシステムといった、電子契約導入に巻き込まれそうな部門の方がお読みになるのにとてもいい内容・分量に感じます。

本書の帯には次のようなメッセージが添えられているのですが、これは法務パーソンに限らず当てはまりそうです。本書で、法務とその他の部門で電子契約導入のハードルを共有できれば、on the same pageでゴールに進んでいけそう。

 

第一歩を踏み出そうとする方へ

リモートワークの推進に欠かせない電子契約の導入
社内調整の進め方のリアルから基礎的な法令知識まで
その「つまずき」を解消する 

唯一ネックは、価格でしょうね。法務パーソンでなければ、このサイズの書籍に税込2,420円はかなり割高に感じられる…でも、「電子契約が良さそうなのは理解したけど、事業者をどう選べばいいの?ルールをどう作っていけばいいの?」という悩みの道しるべになってくれる良書でした。

もっと早く読めばよかったー。

*1:この半年、何度も書店に行っているのに、そのコンパクトさや内容に気づかなかった自分が腹立たしい。ちゃんと法律書のコーナーにも足を運んだはずなのに何を見ていたのか…

*2:日本の稟議という慣習をコケにしているところも興味深かったです。私は、きちんと設計・運用すれば悪くないと考えるのですが…