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大阪で働く法務パーソンのはなし

株主総会書面決議の議事録と同意書

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子会社では、人事異動により、任期満了を待たずに役員を変更することも珍しくありません。そんな場合の役員変更関連書類は、数を減らして、株主提案の書面決議で済ませてしまうことがあります。

取締役会招集→臨時株主総会開催は面倒だし、実態にも合わない

役員の選任は株主総会決議事項なので、原則は、取締役会で臨時株主総会を招集し、招集通知を発送し、臨時株主総会を開催しなければなりません。しかし、完全子会社だと、毎月取締役会を開催しているところばかりではないし(当社子会社は四半期に一度)、そもそも親会社が決めた役員変更なのに、子会社から「取締役●が●年●月●日をもって辞任するので、その後任として取締役1名の選任をお願いするものであります。取締役候補者は、次のとおりです。」などと議案の概要を示すのも違和感しかありません。

書類を作る側の手間でいえば、取締役会議事録*1株主総会招集通知を作るのが(登記に使わないので)面倒という事情もあります。

そこで、実態に合わせ、臨時の役員変更については、株主提案の書面決議で済ませることがあります。

書面決議は、十分な審議ができないから多用すべきでないという批判もあるかもしれません。しかし、こちらの方が実態に合っているし、会社法で認められた手順なので堂々と使えばいいと個人的には思っています。子会社の役員変更は親会社の一存で決まるので、議論の余地もなく、取締役会を挟むだけ無駄でしょう…

同意書は保存しなければならない

当社では、株主提案で書面決議を行う場合、「株主総会の目的事項にかかる提案書兼同意書」なるタイトルの書面を作成します。役員選任くらいであれば、A4 1枚に収まります。

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完全親会社からの提案書兼同意書

会社法上は、メールでも良いですが、当社はまだまだ紙文化なので、このような書面に親会社の印を押して子会社に提出しています。この同意書は、議事録同様、10年間の本店備置義務があります(会社法319条2項)。

株主総会議事録の記載事項

加えて、株主総会議事録の作成も必要です(会社法318条1項、会社法施行規則72条)。会社法318条1項は、「株主総会の議事については」とあり、議事とは会議の内容をいうと思うので、決議を省略すれば「議事」はないだろうとつっこみたい気持ちもありますが、会社法施行規則72条4項は、書面決議の場合の議事録記載事項として次の項目を挙げています。つまり、議事録を作らないといけないということですね。

  • 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
  • 上記の提案をした者の氏名又は名称
  • 株主総会の決議があったものとみなされた日
  • 議事録作成者

記載事項はかなりシンプルなので、当社では書面決議をしたときは、1枚目に上記の順で項目を立て、決議内容のみ「別紙のとおり」として提案書兼同意書のフォーマット(押印前のもの)を合綴していました。あくまで、「内容」を書きなさいと定められているので、「内容」がわかるようになっていればどのような書き方でよいはずです。むしろ、法令はそれを予定しているはず。

司法書士の壁現る

しかし、ここに、登記申請をお願いする司法書士の壁が立ちはだかりました。議事録には、同意書原本を合綴する必要があると言うのです。どこに書いとるんじゃー!

商業登記法上、書面決議の場合は、議事録に代えて書面決議に該当することを証する書面を提出することとされています(商業登記法46条3項)。これだけだと同意書を提出しなければならないように読めるのですが、会社法施行時の通達(平成18年3月31日民商第782号通達)では、議事録をもって添付書類として差し支えないとあります。そして、議事録の法定記載事項は、上記のとおり決議があったものとみなされた事項の「内容」のみです。

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平成18年3月31日民商第782号通達「会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて」第2部第3 2(5)

有名事務所が執筆されている議事録のサンプル集にも、「同意書原本を綴じましょう」とは書いておらず、「内容を書けばよい」と説明されています(当然)。しかし、私のような事例が発生する可能性も否定できないので、登記を依頼する司法書士さんと事前に打ち合わせることを強くお勧めします。

とはいえ、実際問題、同意書も議事録と同じように本店備置義務があり、合綴して一体で保管しておくことに何ら事実上の不都合はないので、司法書士さんのご指示に従ったことを告白しておきます。。

*1:当社子会社の場合、全員出席が当たり前なので、招集通知は作成していません。