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大阪で働く法務パーソンのはなし

電子契約サービスが横並ぶ

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最近、改めて電子契約サービスの比較をしました。
図らずも数ヶ月おきにチェックしているのですが、そのたび事情が変わっているので、過去の記事だけでなく最新の情報の確認が必須です…

直近のリサーチによれば、規制や解釈が緩和され、かつ、各社サービスがバージョンアップしたために、有力事業者のサービスは、いずれも甲乙つけがたいものとなっています。

一年で電子契約関連の文献が超充実

昨年、緊急事態宣言などで一時的に業務量が減り、「せっかくだから、電子契約の勉強をしよう!」と勉強を始めてから、チーム内や他部署などに勉強会をする機会に恵まれました。再びそんな機会がやってきて、数か月ぶりのアップデート。
勉強を始めたときは、電子契約のことが学べる文献はかなり限られていたのに、この一年で雑誌記事はもちろん、書籍も複数出版されました。さらに、電子契約サービスの事業者のみならず、経営法友会や法律事務所がセミナーを開催してくれました。おかげで、電子署名や電子契約に対する理解は、かなり深められたと思います。

解釈がクリアになり、規制も変わった

しかし、現実はどんどん進みます。雑誌や書籍を参照するときは、発行日の確認が必須!
まず、昨年は、政府が契約書の押印や電子署名について、複数の見解を公表しました。

www.meti.go.jp

www.meti.go.jp

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特に重要なのは3つめで、いわゆる立会人型の電子署名でも、「本人だけで行える」といえるものであれば(固有性の要件を満たせば)、電子署名法3条が及ぶ、つまり二段の推定があると考えられると明らかになりました。

ほかにも電子帳簿保存法施行規則が改正されて、タイムスタンプが必要なケースが減りましたし(改正後電子帳簿保存法施行規則8条1項)、商業登記で利用可能な電子署名の範囲も広がっています(Agreeとクラウドサインの2つだけではなくなっています)。

各社のサービスもバージョンアップ

立会人型の電子署名でも、固有性の要件を満たすものは二段の推定が認められるという政府の解釈を受け、立会人型の代表格であるクラウドサイン2要素認証を拡充しました。

また、当事者署名型の代表格であるAgreeはプランが変わり、電子証明書が発行される電子署名(実印タイプ)とそうでない電子署名(契約印タイプ)がセットになりました。重要な契約は、本人の電子証明書が発行される電子署名を用い(300円/通)、そこまで重要性の高くないものは電子証明書が発行されない電子署名にする(100円/通)、という使い分けをさせ、クラウドサイン(200円/通)と比較したときのコストメリットを訴求しているのものと思われます。
これは、企業にはめちゃくちゃ響きそう…使い始めると、「100円のほうでいいよね」となる可能性大。価格競争になっていってしまうのか。。

そして、DocuSign電子帳簿保存法施行規則の改正でタイムスタンプのコストは不要になったし、立会人型の電子署名EU Advanced)を利用することで商業登記申請にも使えるようになりました。規制が緩和され、各社のサービスが充実したために、それぞれ明確に違うサービスだけれども、事実上の効果には遜色がなくなっています。

電子契約の有効性の最終的な判断は裁判所だが…

立会人型の有効性が認められたと安心していたうちの社員でしたが、ある当事者署名型の電子契約サービスの営業マンからこのような説明を受けました。

「立会人型の電子署名電子署名法3条が及ぶかどうかは、はっきりしていない。あれは政府が言っているだけで、裁判所の判断は出ていない。安心して二段の推定を使えるのは、今はまだ当事者署名型だけだ」

うーん、確かにそれはそうですね。しかし、二段の推定を使う場面はどれだけあるの?という話に戻っていきます…

結論、どこのサービスを利用しても、有効性がネックになる可能性は極めて低そうで、使いやすさとコストで選びましょう、となるのですが、コストの予測を立てるのが難しいのです。年間何通締結するか、そのうち当事者の電子証明書が必要なものはいくらあるのか(そもそもないのか)、同時に締結する契約書がどれくらいあるのか…など、予測はおろか現状把握も難しい。。
そして、なんとかどれか一つサービスを選んだとしても、契約は相手のあることなので、そのサービスだけを使うこともできません。

電子契約に対する不安はほとんど解消されてきましたが、選ぶのは難しくなるばかりです…