Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

DDの知見を子会社のガバナンスに活用する?

f:id:itotanu:20210308174348j:plain


コロナ前は、セミナーといえば2〜3時間が普通で、午後は潰れる(正しくは「直帰できてラッキー」?)という感覚でしたが、現在は1時間程度で設計されるものが多く、しかもオンラインなので気軽に受けることができてありがたいです。講師の方は、ご準備が大変そうだな…と思うのですが。
今日は、最近受けたセミナーの中から感じたことを。

親会社取締役の子会社管理義務

昔は、親と子でも別人ということで親会社取締役の子会社監督義務というのは、限定的に考えられていたそうです。そういうふうに習った記憶はもうありませんが。
現在は、親会社取締役には、子会社を適切に管理する義務があり、親会社取締役の子会社監督の職務があると解されています(グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(「グループガイドライン」)4.4)。

グループガイドラインはグループガバナンスの在り方の実務指針を示すものとされ、「一般的なベストプラクティスを示すものであり、これに沿った対応を行わなかったことが取締役等の善管注意義務違反を構成するものではないが、反対に、本ガイドラインに沿った対応を行った場合には、他に特段の事情がない限り、通常は善管注意義務を十分に果たしていると評価されるであろうと考えられる」と述べています(グループガイドライン1.3)。
「従えというわけじゃないけど、これをやっておけば大丈夫ですよ」なんて、脅されている…

どうやってガバナンスを効かせるのか

グループ会社を多く持つ企業、とりわけM&Aで獲得した子会社を持つ企業は、どこもグループガバナンスをどうやって効かせていくかが課題だと思います。
社外役員には「しっかりやりなさいよ」とばかり言われて、「それ(内部統制システム構築)考えるの、あなた方の仕事ではないの?」と言いたい気持ちを堪えている方も多いはず。

グループガイドラインでは、3線ディフェンスの考え方が採用されていて*1、法務は第2線として第1線の事業部門を牽制する機能が期待されています。そしてグループガバナンスという意味では、子会社の法務部門と連携することで、親子間で複数のレポートラインを確保することも期待されています。

では、法務部門としての縦連携がしっかり取れているグループ企業って、どれほどあるんでしょうか。。子会社には法務部門がないところもありますし、あってももうひとつのレポートラインと評価できるほど連携が取れているかと言われると…
連結財務諸表を作る財務部門とはかなり違うというのが普通ではないでしょうか。

法務DDの知見をグループガバナンスに生かす

前置きが長くなりましたが、法務部門のプレゼンスは概して低く、リソースも限られている中で、グループガバナンスの分野で法務が存在感を発揮するにはどうすればいいか。先日受けたセミナーでは、法務DDの知見を応用してはどうか、という提案がありました。とても興味深い。紹介された手順は、中小企業の法務DDと同じように子会社を簡易DDするイメージでした。

具体的には、まず手始めに、対象会社の初期調査として管理レベルを把握することが推奨されていました。取締役会がちゃんと開催されているか、株主名簿が法定記載事項を網羅しているか、契約書の台帳があるか…といったことなのですが、私の法務DDの経験上、中小企業はおろか、それなりに名の通った企業でもできていないのでは。。「有効な契約書のリストを出してください」という資料開示要求に答えてくれた企業は、今まで1社もなかったと思います。ただ出したくなかっただけかもしれませんが。

ガバナンス目的で子会社を簡易DDするのは現実的でない

法務DDの知見を生かすというのは、一瞬はいいアイデアだなと思ったのですが、実際にやるかと言われるとちょっと難しそうです。

まず、DDするのもそれなりに知見と労力と時間が必要です。普通の企業は、法務DDはほぼ弁護士任せで自力でDDできる法務パーソンなんて珍しいですよね。法務パーソンの育成のために子会社を使って練習するという目的も考えられるかもしれないけど、練習台にされる方はたまったものじゃないはず。それに、ただでさえ心理的距離があるのに、さらに遠くなる→表面を取り繕う→挙句、不祥事が起きたときに「支配的関係が問題の発見を遅らせた」と断罪されるのでは。。

そんなわけで、グループガバナンスを実効性あるものにするには、法務としては「何かあったら相談してもらえる」関係づくりから、と思っています。M&Aで取得した子会社で、人を送り込まずにこれを実現するのは難しいのですが。
みなさんどうされているんでしょうか。ひとつには、法務機能を親会社に集約してしまうことが考えられますが、国内子会社が限界ですし、現場が遠くなるという看過できないデメリットがあるのでちょっと難しい。理想的には、地域統括会社を置いてハブ&スポークっぽい体制を取ることですが、当社グループはそこまでではありません…

*1:そのもととなっているIIAでは、「3線ディフェンス」は守りだけに焦点が当たっているとして2020年7月に「3ラインモデル」へあらためています。