Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

JVにおける拒否権の定め方ー契約?種類株式?定款?

f:id:itotanu:20210418183636j:plain

合弁事業では、マイノリティとなる当事者が株主総会や取締役会で一定の拒否権を求めることが多いです。拒否権のデザイン方法には、大きく分けて、契約、種類株式、定款の3パターンがあると思います。

私の感覚では、クロスボーダーの合弁も含めて、契約で定めてそれ以上の措置をとらないことが多いように思うのですが、それだと法的保護が不十分だと難色を示すパートナーもあります。

拒否権の定め方①JV契約で定める

クロスボーダーの取引を含めて、もっとも一般的なのは、JV契約(株主間契約)でのみ定めるパターンに思われます。「事前同意事項」「株主総会の運営」「拒否権」といった見出しで条項を設けます。英文だと"Reserved Matters"と表現することが多いでしょうか。

契約で定めることのメリットは、何より自由度の高さにあります。些細なこと、持株比率とのバランスに欠くことでも、外野の目に触れてとやかく言われることなく決められます。

他方、デメリットは、この条項は債権的効力しかないと考えられていることで、マジョリティ側が契約に反する決議をとったとしても、あくまで契約違反の問題にすぎず、決議自体は有効になってしまうことです。マイノリティ側としては不満かもしれません。

拒否権の定め方②拒否権付株式を発行する

マイノリティ側の不満を解消する方法のひとつに、種類株式があります。会社法では、拒否権付株式を発行することができます(会社法108条1項8号)。種類株式には、ほかにも議決権制限株式(会社法108条1項3号)や取締役・監査役選解任権付株式(同9号)がありますが、合弁事業では拒否権付株式がもっとも使い勝手がよさそうです。

拒否権付株式を利用すれば、該当事項について種類株主総会の決議のない限り効力は生じないので(会社法323条)、マイノリティ株主の保護は強力なものになります。

しかし、種類株式を発行するとなると定款の定めはもちろん、登記が必要です。そうなると内容を変更するのは厄介ですし、拒否権のある決議事項があるたび、種類株主総会を開催しなくてはなりません。通常、剰余金の配当や役員の選任は拒否権が確保されるでしょうから、毎年種類株主総会を開催しなければならない可能性も高いです。そのコストを負担することになるマジョリティ側は気乗りしないはずです。

拒否権の定め方③定款で決議要件を加重する

契約ではマイノリティの法的保護が不十分で、種類株式だとマジョリティの負担が重い。それでは、定款によって決議要件を加重するのではどうでしょうか。

会社法では、株主総会や取締役会の決議要件を加重することが認められています(会社法309条、369条1項)。この方法なら、従わない決議は定款に違反するため決議取消事由になりますし(会社法831条1項1号)、拒否権事由の変更に当たって定款変更が必要なものの、登記は不要で種類株主総会の手間もかかりません。マイノリティの不安とマジョリティの負担をちょうど良い具合に解消してくれる手段だと個人的には思っています。

しかし、これを利用している合弁事業は極めて少ないと思います。私は、1社しか見たことがありません。

私自身、マジョリティ側で合弁事業の検討に参加した際、相手方から「契約で決めるだけでは法的保護が不十分だ」と種類株式発行の提案を受けた経験があります。「そんな面倒なことはやってられん」という社内の意向を踏まえ、この方法を提案したのですが、マイノリティ側から次の2つの理由で難色を示されました。

公証人が認証してくれない可能性がある

定款による決議要件の加重は、拒否権付株式と認識され、公証人が修正を求める可能性があるというものです。

確かに公証人は裁量が大きく、違う考えを持っている可能性もあります。でも、会社法で認められた方法をとるのだから、自社の考えを説明すればいいし、もっといえば公証人はひとりじゃないので他を当たるという選択肢だってあります。
とりあえず普通の定款でパスして後で定款変更することもできるし、組織再編により合弁を立ち上げるなら、定款認証を要しないのでそんな心配をすることすら不要です。

登記所が認めない可能性がある

もうひとつが、登記所が種類株式と認識する可能性があるというものでした。
地方の法務局であまり種類株式の事例がないケースならともかく、東京や大阪の法務局でそんなことが起きるとは考えにくいのですが、実際には起きているのでしょうか…
万一、そんな事態になったとしても、相手は会社法を所管する法務省なので説明すればわかってくれると思うのですが…そのために事前相談の仕組みもあるわけで。

拒否権の定め方④定款で属人的定めをする

合弁は通常、非公開会社になるので、議決権について属人的定めをすることが可能です(会社法109条2項)。たとえば、持株数にかかわらず、議決権は1人につき1個にするなどです。こちらも登記は不要ですが、私は実際の事例を見たことも聞いたこともありません。

口を出すならカネも出せ

マイノリティ側に交渉力があると、持株比率やJVでの貢献に見合わない(と思える)拒否権を求められることがあります。しかも、契約に定めるだけではなく、より法的保護が確保された方法で。

マジョリティ側は、連結できればいいという考えのこともあると思われ*1、話し合いを横で聞いている法務部門としては、「そんなに口を出したければ、カネも出して1/3超を持てばいいのに…」と思ったりもします。。

*1:当社の場合はそうです。投資も抑えたいはず。