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大阪で働く法務パーソンのはなし

海外子会社からライセンス料を取る

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海外子会社の事業が軌道に乗り、黒字化するのはとてもうれしいです。
しかし、日本の税務当局からは虎視眈々と狙われています。移転価格税制って、厳しいですよね…(当局の目が)

海外子会社から商標ライセンス料を取るか

日本で成功したから、あるいは日本にはもうパイがないから、海外進出するというのは、多くの企業が経験するところです。ゼロからビジネスを育てていかなければならず、3年で黒字化できれば上出来とも言われます(実際、3年で黒字化できるのは稀かと)。

海外商標の取り方は様々で、現地子会社や地域統括会社に持たせることもあるかもしれません。しかし、特に進出初期は、最重要のハウスマークやブランドは、日本の親会社で押さえてしまうことが多いと思います。そして、現地子会社に商標をライセンスします。

このライセンス料、立上げ当初の子会社は赤字なので、取らないことも多いのではと思われます。私は、商標(と著作権)の経験しかありませんが、特許や意匠でも同じようにライセンス料をとっていないのではないかと。
ここで、当局の目が光ります。「ライセンス料を取るべき」だと。子会社からすれば、未開の地に放り出された上に軍資金を削り取られるなんて鬼のような話ですが、移転価格税制は厳しいのです。

取り方には、いくつかの方法が考えられます。

①売上高の●%

もっともベーシックなのは、売上高に一定割合を乗じる方法です。経営指導契約のようなものを締結していれば、そこにライセンス料(ロイヤルティ)まで含めてしまうこともあります(前職ではこの方法)。

②輸出の場合は売買代金にオン

進出してまもなかったり、日本製であることに付加価値があるプロダクトだったりすると、日本からの輸入販売します。この場合は、売買代金に商標等の使用の対価が含まれている(消尽している)と説明することができます。

この場合、ライセンス契約も締結しないことになりますが、輸入手続などで子会社が使用権を有する説明が必要で、親会社から証明書のようなものを発行することがあります。

③取得・維持費用相当(かその一部)

ビジネスが大きくなって現地製造を開始することになったり、M&Aで取得した企業のPMIが進んでハウスマークをプロダクトに付するようになると、②は使えません。
かといって、①も負担が重い…という場合、売上の一部でなく商標権の取得・維持費用を負担させることが考えられます。
輸出事業もあるなら、全部と言わず一部でもいいらしい。

今後、この方法でライセンス料を取っていこうか?という話が勤務先で出てきており、財務部門から「これまでにかかった費用、国別に出して」と言われてひっくり返っております…海外進出の歴史が浅いとはいえ、出願国・商標がいくつあると思っているのか。。これからは「契約アナリティクスの時代」というけれど、ここにもそんな足音が聞こえます。

ところで、親会社が子会社に使わせているのは、登録商標に限りません。未登録商標著作権、ノウハウのような見える化されていない知的財産もあります。そうすると、この方法は不十分ですが大丈夫なんでしょうか。
税務調査では「親会社が開発支援しているか」と聞かれるので、お目こぼしがあるわけでもなさそうだけど。。

アームズレングスか

ライセンス料の設定で注意しなければならないのが、アームズレングス(独立企業間価格)であることです。海外グループ企業との取引だと必須の掟ですね。
「他人からは高いライセンス料を取るのに、子会社からはちょっとだけ」というのは許されません。売買代金にのせる場合も同じです。

誰とどんな契約を締結するかは自由という近代私法の原則がここにはありません。。

「ライセンス」でなくしたら?

「ライセンス料おくれ」と現地に言うと、「知名度ゼロから出発して、ブランドを育てているのはこちらなのに、なぜライセンス料を取られないといけないのか(むしろプロモーション費用をくれ)」と反論されることもあります。気持ちはわかる。

  • 商標権はただ持っているだけだと不使用取消の対象になる
  • 商標権は、商標の創作ではなく、商標に蓄積される信用を保護するもの
  • 商標に蓄積される信用を稼いでいるのは現地子会社

という事情を踏まえると、「親が子に商標を使わせてやっている」のではなく、「親が子に商標の維持やブランド育成を頼んでいる」と評価しても不合理ではないように思います。そこで、親から子へ、次のような業務委託契約を締結したらどうなるでしょう。

  • 営業活動に、親会社の特定の商標を使用することにより、認知を向上させる
  • 被疑侵害者がいないかモニタリングする
  • その対価として、年額●円支払う
  • (業務実績がないと架空取引と言われかねないので)定期報告する

ちょっとやってみたい。そんな理屈を通してくれるほど、日本の税務当局は甘くないでしょうが。。