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大阪で働く法務パーソンのはなし

デジタルコンテンツの「景品類の価額」の算定基準

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景品表示法の相談は、不当表示関連のものが多いですが、時々景品規制についてのものもあります。

景品規制については(意外と)現場もよく理解しているので、法務に寄せられる相談は回答に窮するものが多くて困ります。

景品規制の趣旨と必要性

景品規制の元々の趣旨は、過大な景品のせいで質が良くないものや割高なものを買わされたり、景品に力が入って商品本体の事業者間競争が疎かになったりすることを防ぐというものです。
これだけクチコミにあふれる時代、景品目当てで買う消費者も、景品ではなく商品の質で選ぶ消費者もいていいと思うので、いっそ景品規制は廃止してはどうかと思うのですが…

実際、過大な景品を提供したことのみをもって指導等を受けたりしている企業ってあるのでしょうか。1年半ほど前に某新聞社が過大な景品提供で措置命令を受けていますが、あれとて解約でトラブルになっていたという事情があったからですよね。

「このキャンペーンとこのキャンペーンを同時並行で実施したら、景品規制に抵触するか(上限額を超えてしまうか)」という相談が多く寄せられる私としては、内心「景品を大盤振る舞いして問題になることはないから、いっそやってしまえば?」と思ってしまいます。

購入したらもれなく視聴できるデジタルコンテンツは総付景品?

先日、「商品を購入いただいた消費者にもれなくオリジナルのデジタルコンテンツを提供したいが、景品規制が及ぶか。及ぶとして、景品の額はいくらか?」という相談がありました。

景品表示法上、「景品類」とは、以下の3つの要件を満たすものです(例外あり)。

  1. 顧客を誘引するための手段として
  2. 事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する
  3. 物品、金銭その他の経済上の利益

「経済上の利益」については、告示で次のように定められており、デジタルコンテンツが直接的に列挙されているわけではありませんが、饗応か役務に含まれると考えるのが妥当だと思います(「催物への招待」で饗応ですかね…?)。

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結論としては、他に適用除外となる理由も見当たらなかったので、「もれなくもらえるなら総付景品」という結論になりました。

総付景品なら取引の価額は?

総付景品の場合、景品の上限額は取引価額の2割(取引価額が1000円未満の場合は200円)です。ただ、当社の場合は同時に複数のキャンペーンで総付景品の提供を行うことも珍しくなく、その場合は、景品の上限額は各キャンペーンの景品の額を合算したものになる点に注意が必要です。つまり、それぞれの景品がいくらかが重要なんです。

景品類の価額の算定についても公式な見解(通達)があって、それは以下のとおりです。

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ひとことで言えば、「常識で考えなさい」ということですね。スーパーやコンビニで飲み物などについてくるおまけは、「200円では買えないだろ!」というものも多い気はしますが(特に有名アニメ・人気ブランドのやつ…)。

さて、では、オリジナルのデジタルコンテンツの価値はどう考えればよいのか?事業部が考えていたコンテンツ(動画)はかなり短時間で、「類似品」がなかなか見当たりません。

  • Amazonなどの課金コンテンツの価格を参考に時間で按分しては?
  • コンテンツ制作費÷製造数で原価を出して、それくらいにしておけばいいのでは?
  • マンガなら1話数十円で読めるから、それと同じくらいでよいのでは?
  • もう、えいやで決めてしまえば?

と色々アイデアが出まして、結局、今回のコンテンツは極めて短い時間だから、捨象して考えてもよいのでは?ということにしました。もともと複数キャンペーンが並行する前提で、上限スレスレの景品は提供しないようにしているので、そのバッファで吸収できるだろうと。ただ、万一のときに備えて、価額について何らかの説明ができるよう準備する必要はあります*1

豪華な総付景品?が!

そんな相談があってからしばらく。「某企業が豪華な総付景品を提供しているが、なぜOKなのか?」と相談者から詰め寄られました。。確かに、取引価額が数百円なので普通に考えると上限額200円なのに、とても200円では手に入らなそうな贅沢なコンテンツ(相場は数千円)が「もれなく」もらえることになっている…

セット商品としての販売など景品規制の適用が及ばない理由がわからなかったので、企業の広告制作の味方、JAROに「あの企業みたいなキャンペーンをやりたいのですが、景品表示法上問題ないでしょうか?」とチームのメンバーに聞いてもらいました。
JAROも色々考えてくださったのですが、「常識的には難しい」という回答で某企業の謎は解けず…*2
ダメもとで消費者庁にもデジタルコンテンツの価額について聞いてもらったけれどなしのつぶてで、「気になるものがあるなら情報提供制度を利用して」と。嫌がらせしたいわけじゃないんです。。

デジタルコンテンツはゼロ円?

某企業のキャンペーンの謎が解けずに悶々としていると、件の相談者から「代理店からは『デジタルコンテンツの価額はゼロ円』と言われた」と衝撃の一報。そして、「なぜお前たちは景品規制の適用があるというのか」と三度詰められました…

何か大きな見落としがあるんでしょうか。。

*1:類似品がないので、コンテンツ制作費÷製造数でいいのではないかと思っています

*2:可能性としては、①無償提供の実績があり、無償と判断した?、②過大な景品提供が問題視されることは通常ないので、違法と知りながらやった?(それはないかと。。)