Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

御社の株を質に入れたい

 

f:id:itotanu:20210606233839j:plain

当社では、取引先から担保をとることがあります。
今は基本的に現金しか認めておらず、お預かりする保証金には、定期預金並みの利息をつけています。しかし、超低金利時代の今、「そんな利息じゃ現金がもったいないので、おたくの親会社の株式を買って質入れしたい」という取引先が現れました。

「株式を質入れしたい」

当社では、売掛金を持つことになる取引先には与信額を設定し、それに見合う担保をご提供いただいています。以前は上場会社株式や不動産なども担保として受け入れていましたが、与信と担保が釣り合っているかの確認や実行が面倒なので、新たに預かるものは保証金か定期預金にしていただいています。

取引先は中小企業ばかりなので(だから担保をとるわけで)、最近は経営状況が厳しく、保証金の取り崩しを依頼されることも多いのですが、中には大変余裕をお持ちのところもあります。今回、そんな「お金には困っていない」取引先から、「おたくで現金を寝かしておくのはもったいない」ということで、当社の親会社(上場企業)株式を購入して質入れしたいと申し出がありました。

親会社株式に質権設定できるのか?

会社法上、組織再編で取得することになる場合などの限られたケースを除き、子会社は親会社株式を取得できません(会社法135条)。自社株取得の財源規制の逸脱になるからですね。

では、他人が持つ親会社株式への質権設定は可能でしょうか。会社法には、子会社による親会社株式の質権設定を禁じる定めがないので、可能といってよいのでしょう。
ただし、親会社株式は振替株式ですから、質権設定には口座への登録が必要で、保証金を預かるよりも当社にとっては手間がかかります。

実行できる?ー「必要かつ不可欠である場合」

親会社株式に質権が設定できるとして、いざというときに実行できるのでしょうか。

質権ということは、当社が取得して換金する帰属清算方式が基本になるように思われます。親会社株式の取得規制に引っかかるじゃないか*1

再び会社法を確認すると、例外的に親会社株式の取得が認められるケースが法務省令にも落ちていて、「その権利の実行に当たり目的を達成するために親会社株式を取得することが必要かつ不可欠である場合」も取得が認められます(会社法施行規則23条14号)。要は、売掛金の回収のために親会社株式を取得することが「必要かつ不可欠」といえればよいようです。

さて、親会社株式を取得することが「必要かつ不可欠」とはどのような場面をいうのでしょうか?考えられるのは、債権者にほかに財産がない場合ですね。おそらく、これなら取得規制にかかることはないでしょう。
しかし、債権者としては、ほかの財産状況を調査することなく、任意のタイミングで売掛金を回収したいので、親会社株式に質権設定するのは悪手に思えます。加えて、仮に取得できたとしても相当の時期に処分しなければならないので(会社法135条3項)、株価が低迷していれば売掛金を回収しきれないかもしれません。

気に入らない担保は断ればいい

このような問題を考えることになったのは、「おたくの株式を質入れしたい」という取引先の申入れを断る言い訳を考えてほしいという相談がきっかけでした。 

何を担保にとるかは債権者の自由なのだから、「当社では現金以外の担保は認めていません」でいいのではないかと思うのですが…

巧妙なプレッシャーだったりして…

親会社の株式を質入れすることについて、取引先に他意はなかったと思いますし、もしかすると当社グループの成長に期待してくださったのかもしれません。

しかし、「株価が下がって債権回収に失敗しても、お前たちの責任だぞ」とプレッシャーをかけられたのかもしれない…と邪推してしまいました。

*1:処分清算方式であれば、取得が生じないので問題ないようです。