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大阪で働く法務パーソンのはなし

やりとりはきちんと保存しておこう

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先日、前職で某国企業とのJV案件を依頼した弁護士から連絡がありました。用件は、「契約当時のことを教えてほしい」というものです。10年前の話なんて、覚えているわけないじゃないか。

10年前の契約が元でトラブル発生

弁護士によれば、約10年前に締結した契約が元でトラブルが発生しており、国際仲裁に発展しているとのこと。残念なことに、契約条件が自社(前職)に非常に不利だといいます。

そこで、仲裁の代理人が「なんでこんな契約になったんだ?」と締結経緯を知りたがっているという話でした。

私は記録魔なので、やりとりした契約書やタームシートはすべて共有フォルダに保存していました。それを見ればあらかたわかると思うのですが、どうやら紛失しているようで、当時起用した弁護士に確認を依頼した模様。

10年前のことを教えてほしい!?

普通の会社なら、10年くらい前のことであれば、当時を知る人がいくらか残っているものです。JVであればその後運営に携わった人もいるはずなので、確率はさらに上がります。
しかし、私の退職前後に創業・成長期を支えた人の多くが退職しており、今となってはその案件に関与した人は社長以外誰一人会社に残っていないそうです。ベンチャー企業というのはそういうものでしょうか…

案件をリードした役員、部門長、その他の交渉担当がみんないなくなって音信不通。当時の記録も紛失している。
そんな中、JVを担当した弁護士と私がたまたま知り合いで現在も連絡がつくという理由で、「10年前の状況を教えてほしい」と依頼がありました。私、当時平社員だったんですけどね…

記憶を頼りに回答するほど軽率ではない

協力するなどひとことも言っていないのですが、仲裁の代理人から、弁護士を介して私に一方的に質問事項が送られてきました。この(不利な)条件を持ちかけたのはどちらか、なぜこんな契約書を締結したのか…など。

交渉に参加していない私に経緯を聞いたって、知るはずもありません。仮に当時承知していたとしても、10年近く前のことなんて忘れていますし、万に一つ覚えていても、記録もなしに回答するほど軽率ではありません。私は法務ですよ。。

だいたい、弁護士だって、私に連絡がつくからって易々と請け負うなよ…と言いたい。「現在の担当者に連絡先を教えてもいいか?」と言ってくるし(もちろん断りました)。たまたま連絡がついた私は不運としかいいようがありません。

もしかして密約が存在するかも?

前職の件はとりわけひどいケースですが、「当時の記録がきちんと残されていなくて困る」というのは、残念ながらよくあることです。
私も、契約書上では確認できない金銭の支払いを要求されるという困った経験があります。

誰とどんなやりとりをしたのか、きちんとメモを残してくれればよいのですが、責任者には秘密主義の人も多く、結果だけを下に落として経緯を共有してくれないことも珍しくありません。そして、ひとつの企業に長居することなく、渡り鳥のように姿を消していったりもします。

記録がないので、相手方とどんな約束をしたのかわからず、「そんな約束はしていない」と主張するのも慎重にならざるを得ません。もしかして密約が存在するのではないか?、請求を拒否したらそんな証拠が提示されるのではないか?と疑心暗鬼にもなります。

やりとりはきちんと保存しておこう

過去の記録がなくて助かることもありますが、基本的には記録がないことは自社にとって不利益です。重要な案件になればなるほど、詳細を記録しておくべきです。

私自身は、外部や社内とやりとりした内容はすべて共有フォルダに保存しており、私が知っている情報はすべて会社に記録されています。共有フォルダが破壊されない限り、消えません。そうすることがとても重要だと信じているので、メンバーにもやってもらっていますし、実際役立つ機会も多いです。

今後、社内外のやりとりのツールが変わっていく可能性があります。メールからチャット、また新しいツールへと。
案件が問題化するスピードより、ツールが進化を遂げるスピードのほう速い可能性もあるので、新しいコミュニケーションツールを導入するときには、案件のやりとりをどのように恒久的に記録するかも検討しなければなりませんね。。