Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

決裁者と契約締結者はイコールであるべきか

f:id:itotanu:20210812000129j:plain

「決裁者と契約締結者はイコールであるべきか?」と聞かれたら、「そりゃ、それが理想では?」と反射的に思ってしまいます。

しかし、実際には一致しないことも多いですし、よく考えると「決裁者=契約締結者であるべき」とは言い切れないような気もします。変な沼にハマってしまいました。

決裁者=契約締結者を貫けない

私が所属する管理部門だと、大体の契約は部門長決裁で締結でき、実際に部門長名義で締結することが多いです。つまり、職務権限規程上の決裁者=契約締結者です。前提として、会社法14条があります。

 

(ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人)

第十四条 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。

2 前項に規定する使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

ところが、取引基本契約や不動産系の契約のように、社内規程では部門長決裁でOKでも、相手方が実印による押印(と印鑑証明書の提出)を求めるので代表取締役名義で契約を締結することもあります。

そのほかにも色々な事情で、決裁者=契約締結者を貫徹するのは難しいです。

決裁者>契約締結者である場合

では、どんなイレギュラーが発生するのか。当社の例を挙げてみます。

まずは、決裁者が契約締結者より上位である場合です。社長決裁の契約を部門長の名義で締結するようなケースですね。

どんな実例があるかというと、やむを得ないものとしては、クロスボーダーのM&A案件で署名セレモニーが行われるケースです。社長自ら出席することもありますが、当社の場合、そういうセレモニーには担当役員・部長クラスが出席するのが通例で、ディールの大きさは社長決裁であっても署名権限を授与して対応します。

真面目な企業や、代理人がきっちりした方だと、委任状の提出やクロージングの提出書類である取締役会議事録に署名の授権をしたことの記載まで求めることもありますが、ないことも多いです。正直、こちらも「CEO XXXXX」と書かれていたとして、本当にその人がCEOなのか登記や身分証明書で確認しているわけではありませんし。。

決裁者より下位の人が(決裁者の授権を得て)契約締結の名義人となることは、内部統制上は問題がないように思われます。
もっとも、内部統制とは業務の適正を確保するための体制を構築するシステムのことであり、「業務の適正」とは、有効かつ適正では足らず、効率的でなければなりません。下位の人でも締結可能な契約を上位の人が決裁することは効率的とはいえないので、そうすると、「内部統制上OK」と言い切ってしまってよいものか悩ましいです*1

決裁者<契約締結者である場合

次に、決裁者より契約締結者のほうが上位である場合が考えられます。部長が決裁した案件の契約書を社長名義で締結する、といったケースです。

字面だけ読むと「それはダメでは?」と反射的に思ってしまうのですが、そういうことは頻繁に起きているように思われます。

上記の例のように、「相手方が代表印と印鑑証明書を求めるから、やむなく社長名で…」というケースのほかにも、「契約書はすべて社長名義で締結する」という企業も結構あります。上場企業の場合でも、です。実際、前職がそうでした。

社長名で契約するので、相手方は会社による意思表示と疑う余地が(事実上)なく安心して取引に入れてよいのでしょうが、社長は知らないのに何でも社長名義でハンコを押してよいのだろうか?とふと疑問を持ち始めると、「なんか、ダメな気がする」と思えてきます。。

もう少し考えよう。

*1:広義の内部統制との関係で是か非か?という相談は誰にしたらいいのでしょう?顧問弁護士だと心許ない・・・