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大阪で働く法務パーソンのはなし

公益通報者保護法の事業者向け指針を読んで

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先週、公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号)パブコメ結果とともに公表されました。 

www.jiji.com

ひとことで言えば、「指針の解説を待て」です。が、困った記載がちらほら。
改正法の施行は来年6月1日予定とのことですから、まだ時間があるにはあるけれど…

大企業は従事者を定め、体制を整備しなければならない

まず、指針の前提になっている改正法の内容を簡単におさらいすると、該当は以下のとおり。

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https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_200615_0001.pdf
  • 常時300人超の労働者を使用する事業者には内部通報体制の整備が義務付けられる
  • 内部通報対応に従事する者の秘密保持義務違反に刑事罰が課せられる

というあたりにスポットが当たっているように感じますが、ほかにも

と、大きな改正が行われます。監査役から内部通報を受けたら、私はどうしたらいいの…

今回公表された指針は、これら改正のうち、内部通報に対応する人(公益通報対応業務従事者)を定めたり、体制を整備したりするために事業者がとるべき措置に関するものです。

公益通報対応業務従事者」とは誰のこと?

 改正法11条1項は、次のようになっています。

 

事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない。

そして、指針では公益通報対応業務従事者とは、以下すべてを満たす人をいうと定めています(指針第3の1)。

  • 内部通報受付窓口で受け付ける内部通報に関して公益通報対応業務を行う
  • 当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される

ここで、公益通報対応業務(受付・調査・是正)は、普通の企業は分担して行うので、誰が通報者であるかを知る人間はすべて従事者になるのか?という疑問が生じます。特に最近はCGコードの要請もあって、外部に受付窓口を設けることが上場企業グループではスタンダードになっているところ、外部受付窓口も従事者なのか?

この点、パブコメ結果では、4月公表の検討会報告書の「受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務を行う場合に、「公益通報対応業務」に該当する」を繰り返し引用していて、外部委託先も該当可能性があると言っています(パブコメ結果1頁)。
さらに、「通報者はAさん」と具体的に言われなくても、特定可能な情報が共有されると「特定させる事項を伝達される」ことになるらしい(パブコメ結果1頁)。

ほかにも、グループ企業で共通の内部通報窓口を設けている場合の子会社における従事者は誰にすべきか?といった問題もあります(パブコメ結果では、指針の解説で明らかにすると書いてありました(4頁))。

事業者がとるべき措置

指針のもうひとつの柱は、事業者がとるべき措置について。項目だけ挙げると次のようになっています(指針第4)。

部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備

  1. 内部公益通報受付窓口の設置等
  2. 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
  3. 公益通報対応業務の実施に関する措置
  4. 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置

公益通報者を保護する体制の整備

  1. 不利益な取扱いの防止に関する措置
  2. 範囲外共有等の防止に関する措置

内部公益通報対応体制を実行的に機能させるための措置

  1. 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
  2. 是正措置等の通知に関する措置
  3. 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
  4. 内部規程の策定及び運用に関する措置

パブコメでは、「窓口を人事部門に置くのは避けるべきと明記すべき」という意見が多数寄せられていました。当社も人事部門長=内部通報対応責任者のため、気持ちはわかる、わかりますけど消費者庁に言っても…ねぇ。じゃあ、誰に言うのかという難しい問題がありますが。

その他指針への疑問

自社でどういう対応をとっていくべきかは、結局のところ指針の解説を待たないと決められなさそうなので、当面は忘れておこうと思っています。指針の解説が出たときのために、その他の疑問を備忘メモ。

(内部)公益通報の範囲は?

指針の解説を待つ必要はないかもしれないけれど、まず、「内部公益通報」や「公益通報」が何かをよく理解する必要があります。指針では、「内部公益通報」とは、労働者か役員が会社にする公益通報であって、窓口への通報に限らず、「上司等への報告が公益通報となる場合も含む」とあります。「●●さんからいじめられている」という部下からの相談も公益通報になってしまうのか…

公益通報対応業務従事者には、書面により指定するなどして「自分は従事者だ」とわかるようにしなければならないとされるので(指針第3の2)、管理者には「部下からの相談についてはあなたは従事者ですよ。漏らしたら刑事罰が待ってますよ」と指定するんですかね。

匿名通報者とどうコミュニケーションをとる?

指針では、正当な理由がない限り、内部公益通報があれば必要な調査を行うこととされ(指針第4の1(3))、通報者が匿名というのは「正当な理由」に当たらないそうです(パブコメ結果16頁)。
それはそうかなと納得できるのですが、消費者庁はさらに、「匿名通報者においても、本法に基づく公益通報を行う場合には、事業者が本法及び指針に基づく是正措置等の通知等を行えるように対応することが重要」だとまで述べています(パブコメ結果16頁)。どうやって実現しよう…?

不利益取扱いをした役員の処分は誰がする?

ニュースの見出しで複数取り上げられていたのが、通報者に不利益取扱いした役員等に対して懲戒処分等適切な措置をとる旨指針に定められたことです(指針第4の2(1)ロ)。内部通報対応で通報者に不利益取扱いを行わないのは鉄則中の鉄則ではありますが、もし役員が「こいつはうるさいから地方に置いておこう」という判断をした場合、一体だれがこの役員に処分を下すんですかね…そんな判断が明るみになることもなさそうだし。

顧問弁護士事務所はNG?

パブコメでは、「人事に窓口を置かせるな」と並んで「顧問弁護士に窓口を置かせるな」というご意見も多数ありました。当社、どっちもやってるよ。。
検討会報告書でも顧問弁護士に窓口を置くことの懸念は指摘されていて、内部通報しようとする人が選択できるよう情報を提供するのが望ましいとありました。指針の解説でも触れるそうですが、どういう記載になるやら。匿名通報者とのコミュニケーションの問題もあるので、外部受付業者の利用が広がっていくのか…?

私の教育は誰がしてくれるの?

指針では、労働者等に教育・周知を行うほか、内部公益通報業務の従事者に対して「公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う」ことが求められています(指針第4の3(1)イ)。通報を受ける私こそ、十分な教育を受けないといけないのですが、いったい誰がしてくれるのでしょうか。。経営法友会あたりに期待。

推奨から義務へ。しかし…

現在も公益通報者保護法はあるし、民間事業者向けのガイドラインも存在します。当社も可能な範囲で則って運営しているけれど、所詮は推奨なので「ま、こんなもんで」で済ませられましたが、来年からは義務になります。

でも指針を読む限り、スタートから100点の対応をとるのはハードルが高そう…みんな、どこまでしっかり守るのでしょう。周囲をチラ見しながらおそるおそる運用している一年後の姿が今から思い浮かびます。。