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大阪で働く法務パーソンのはなし

実質的支配者情報リスト制度は利用すべきか

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法務省から、実質的支配者情報リスト制度の創設がリリースされました。

www.moj.go.jp

今のところあまり話題になっていないように感じるのですが、これ、利用した方がいいんでしょうか?もっといえば、22年1月31日以降速やかに法務局に提出したほうがいいのか。

実質的支配者とは

「実質的支配者」とは、犯罪収益防止移転法4条1項4号の「主務省令で定める者」のことで、具体的には同法施行規則11条2項に定めがあります。しかし、とても長くて読みにくい上、あたかも自然人限定かと思いきや、一般企業でも、上場企業とその子会社は自然人とみなされます(同規則11条4項、犯罪収益防止移転法4条5項、犯罪収益防止移転法施行令14条)。つまり、私も他人事ではありません。

犯罪収益移転防止法上の「実質的支配者」にはいくつか種類がありますが、今回創設される制度で対象になる実質的支配者は、以下のいずれかに該当する者だけとのこと。

  1. 株式会社の議決権の過半数を直接又は間接に有する自然人
  2. 上記1がいない場合には、株式会社の議決権の25%超を直接又は間接に有する自然人
    ※いずれも株式会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合を除く。

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    https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00116.html

実質的支配者情報リスト制度とは

犯罪収益移転防止法は、マネーロンダリング・テロ支援対策で15年ほど前に施行された法律で、当時法律事務所に勤めていた私は、担当弁護士に「この法律ができたから、新規クライアントには本人確認をやってほしい」と言われ、「はい??」と思ったことを記憶しています(どうしたのか忘れましたが、身分証明書を見せていただいたのだと思います…)。

施行後しばらくは、金融機関で重用される法律だったので、一般企業の法務の人間はあまり意識することはありませんでした。
それが2018年から定款認証時に公証人への申告が必要になり、今回の制度創設もあって、無視できなくなってきました。

法務省は、今回創設される制度について以下のように説明しており、その趣旨は実質的支配者を継続的に把握する取組みのひとつだといいます。

 

公的機関において法人の実質的支配者(Beneficial Owner。以下「BO」という。)に関する情報を把握することについては,法人の透明性を向上させ,資金洗浄等の目的により法人の悪用を防止する観点から,FATF(金融活動作業部会。Financial Action Task Force)の勧告や金融機関からの要望等,国内外の要請が高まっているところです。

こうした要請を踏まえ,法人設立後の継続的な実質的支配者の把握についての取組の一つとして,登記所が,株式会社からの申出により,その実質的支配者に関する情報を記載した書面を保管し,その写しを交付する制度を創設することとし,令和4年1月31日から運用を開始します。

具体的には、株式会社が法務局に実質的支配者に関する書面を提出し、法務局がそれを保管するとともに、認証文付きの写しを交付してもらえる制度らしい。

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実質的支配者情報リストの見本(https://www.moj.go.jp/content/001355693.pdf

実質的支配者情報リストはいつ使う?

では、この制度をいつ使ったらいいのか。あるいは使わざるを得ないのか。

そもそも、25%超の議決権を持つ株主(相互保有株式はカウントされる*1)がいる株式会社でなければ対象にならないので、一般的な上場企業は対象外になりそうです。一方で、その子会社群は対象になります。

当社の子会社に目を向けると、実質的支配者の確認が求められるのは金融機関や不動産関係の取引くらいではないかと思われますが、これらの事業者から「法務局でもらってきてください」と依頼されるようになるのでしょうか。

結局自己申告なのだから、株主名簿で十分じゃないの?

もし、金融機関などから「認証文付きの実質的支配者情報リストを出してください」と言われたらどうすればよいのかと法務省のサイトを確認すると、提出書類は以下のとおりでした。

  • 所定の申出書
  • 所定の実質的支配者情報リスト
  • 申出日時点の株主名簿の写し(リストと一致しない場合はその理由を説明した書面も)
  • 代理人による場合)委任状

他にも、任意で実質的支配者の株主名簿や本人確認書類を提出することもでき、それらが添付された場合にはその旨も記載されるとのこと。

つまり、肝は株主名簿であり、法務局では形式審査して認証文をつけるだけで、その認証文にも以下のように注意書きが付されます。

 

これは,会社において作成した実質的支配者情報一覧について,登記官が各添付書面欄記載の書面と整合することを確認して保管を行ったものの写しであり,記載されている内容が事実であることを証明するものではない

(強調筆者)

ということは、わざわざこの制度を利用しなくても株主名簿の写しを提出すれば十分ではないか…

非公開会社の株主の変遷(譲渡手続に瑕疵がないことを含む)の把握は難しいことが多いです。実質的支配者の把握が大切なのは理解できるけど、本気でやるなら非公開会社の株主変更の効力発生要件を当局への登録にしないといけませんよね。。そうなっていくのかな…

とにかく、急いで提出するメリットはなさそうだし、添付書類もすぐに用意できるので、必要に迫られたときにやろうと思いました。