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大阪で働く法務パーソンのはなし

コーポレートガバナンスを船にたとえる

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CGコードの要請等に基づき、毎年役員向けに研修を行っています。今年は、コーポレートガバナンスをテーマに外部講師を招いてレクチャーをしてもらったのですが、評価が今ひとつ・・・

役員へのトレーニングが求められる時代

CGコードの原則4-14には、次のように定められています。

 

新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担う者として期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切にとられているか否かを確認すべきである。

補充原則でも、役員が継続的にその役割・責務への理解の更新を行い、会社としてトレーニング方針を開示することが求められています。

「役員になるような人は、自分の仕事に求められる知識やスキルくらい、自分でなんとかしなさいよ」と正直思うのですが、この原則をコンプライしない理由はなかなか見当たらず、当社も当然コンプライ。その一環で、私たち法務部門も毎年最低1回は役員らを対象に研修を行っています。

社外役員に役割を自覚してほしい

テーマを何にするかは毎年頭を抱えるのですが、今年は基礎に立ち返って、コーポレートガバナンスをテーマにすることにしました。

建前上の理由は、会社法やCGコードが改定され、2022年には東証の市場再編もあるので、今一度焦点を当てるよいタイミングである、ということ。本当のところは、社外役員に自分たちの役割を改めて自覚してほしいからでした。

時々、「この会社に社外役員や監査役はいないのか?」と思うことがありまして…監査役の微妙なポジションに同意はしますけどね*1

航海に臨む船にたとえて

会社運営は、大航海時代の船にたとえられることがよくあります。
船が持ち帰る財を目当てに出資する人が株主、舵を取る人が経営者、乗組員が従業員…というような感じで。

これを現代の複雑なガバナンス体制にフィットするようにより細かくたとえると、

  • どの大陸・財を目指すかを考える幹部が取締役会のメンバー
  • 目指す場所へ向けて航路を定め、舵を取る船長が経営者(一緒に舵を取るのが業務執行取締役や執行役員
  • 自ら舵は取らないけれど、航路や舵取りをモニタリングするのが社外取締役(いざというときは船長を変える権限も)
  • さらに少し離れたところで、出資者から命を受けて船全体をモニタリングするのが監査役
  • 舵取りのベースになる各種メーターが従業員の行動やその結果
  • 船長が適格か、舵取りがおかしくないかをチェックするのがコーポレートガバナンス
  • メーターが正常に働き続けることが内部統制

というように、それぞれ異なる役割が期待されているということができます。研修では、そんな話を中心的に外部講師にしてもらいました。それぞれ役割が違うことを感覚的に理解してもらうにはよいテーマ・たとえだったと思います。

具体と抽象の往復を入れればよかった

ところが、研修後のアンケート回答の中には「基本的すぎて学ぶことがほとんどなかった」と回答した社外役員が複数ありました。

「へー。頭ではわかっているのに、できないんですね」と毒づきたい気持ちでいっぱいですが、きちんと理解するためには、具体と抽象の往復、もとい具体→抽象→具体のルートを用意すべきだったと反省しました。
具体→抽象→具体の流れは、細谷功さんの「具体と抽象」で説明されています。この本、薄いし文章も読みやすいけれど、なぜ、自分と他者の話が噛み合わないのか、伝えたいことが伝わらないのかに気づかせてくれるオススメの本です。

無自覚な役員に気付きを得てもらうには、各自の役割が違うという解説をした後で「望ましい取締役会の風景」を示す流れにすればよかったかもしれません。そうすれば、「こういうことか」と思えた人もいるかも。

感想には具体を

研修後のアンケートを見ていると

  • 言葉では理解しているつもりだったが、船にたとえてもらって感覚的に理解できたのがよかった
  • 時間があれば、経営判断の原則が認められるために、取締役として留意すべき具体的なポイントを聞けるとなおよかった

と具体的に回答してくださる方がいて、次につながるフィードバックになります。一方、

  • 基本的すぎる。もう一段上の内容がよいのではないか
  • 内容の濃い素晴らしい研修だった

という、具体性に欠けるコメントをする方も結構多いです。このコメントをした人もペラペラなのではないかと思ってしまう…

経営者以外の役員に「人を動かす力」は不要なのかもしれませんが、読む人がいるとわかっているのだから、もう少し考えて答えてくれてもいいのに。

*1:「こんなリスク・不正が顕在化している」と法務から監査役に定期的に報告していますが、監査役が業務に生かしているところは見たことがない…