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大阪で働く法務パーソンのはなし

稟議とは何か

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先週は、弁護士ドットコムさん主催のLegal Innovation Conference〜法務DXの壁を越えろ〜で電子契約の導入がなかなか進まない会社=所属先のお話をさせていただきました。
私以外の実話も複数紹介され、「他社のうまくいっていない話」を聞けるめったにないチャンス。私は経理目線のお話がとても興味深く、まだ壁がありそうだな…と感じました。

さて、ただいま、稟議システム(ワークフローシステム)の入れ替えにあわせて、稟議規程を見直しているのですが、「稟議とは何?」というそもそも論でつまずいています。
一般的な企業では、「稟議」とそうでない申請をどのように区別されているのでしょうか。

「稟議」の意味

新明解国語辞典(第7版)では、「〔会議を開く手間を省いて〕おもな担当者が案を作って関係者に回し、承認を得ること」とあります。
〔会議を開く手間を省いて〕というニュアンスがあるので、本当は、会議を開くべき重要な事柄にのみ用いるものといえるでしょう。実際、ただの経費精算申請を「稟議」とは呼びません。

では、稟議とそうでないものの違いを、普通の企業ではどのように線引きしているでしょうか。

前職の場合ー稟議とは部門長を超える決裁を求めるもの

前職で「稟議」とは、部門長を超える決裁、つまり取締役の決裁を必要とするものを指しました。部署によって、起案できる稟議・その書式、決裁者や承認ルートまで事前にシステムで設定されていました。

「なんでも対応できる」稟議も用意されてはいましたが、そのようなものは社長決裁でしたし、総務が職務権限規程に照らして合議部門を設定するので、「あの部署を通し忘れた!」というミスが生じる余地はほとんどありませんでした。
万一、職務権限規程で網羅できていない内容があれば、総務部長が合議先を判断したでしょうし、規程整備の委員会活動も定期的にやっていたので、すぐに規程改定に動いたことでしょう(そういうケースはなかったですが)。

そして、部門長決裁で足りるものは、自部門限りであれば口頭決裁(支払が必要なら支払申請で承認をもらう)、システム対応依頼など、他部門の決裁が必要であれば別の申請フォーマット・承認ルートが用意されていました。

いずれにしても、「どのフォーマットを使えばよいかわからない」「どの部署を通せばよいのかわからない」ということはほとんど生じ得ない、優れた内部統制だったと思います。

所属先の場合ー「稟議」フォーマットであげたら稟議

一方、現在の所属先では、「稟議」のフォーマットはひとつだけで、そのフォーマットで申請するものを「稟議」と読んでいます。実は、社長や他の役員が他のフォーマットで決裁する申請もあるのですが、それは「稟議」とは呼びません。

同じ社長決裁でも、稟議とそうでないものがあるのは、私としては違和感があるのですが、当社の場合、経営会議承認も社長決裁の一つの手段という位置付けなので、【経営会議承認>稟議>それ以外申請>口頭】という格の違いがあるのだと言われるとそんなものか…とも思います。

ちなみに、稟議は実際どのように申請するかというと、システム上で起動し、

  • 起案者が決裁者を設定する
  • 起案部門の庶務担当が合意部門(関連部門)を設定する
  • 関連部門の庶務担当は、当該部門内の確認者を設定する

というルールです。このやり方の場合、起案者が「決裁者は誰か」、庶務担当が「どの部署の合意が必要か」を職務権限規程を見ながら確認しないといけないので、とても非効率。多くの社員は「経験と勘」でやっています。

企画稟議、執行稟議、契約稟議…

前職では「稟議は目的を明示して事前に行い、決裁後速やかに実行に移す」という考えが徹底していたし、添付書類と申請内容の金額が1円でもずれていれば差し戻すほど、比較的厳格に運用されていました。

したがって、ある場所に新規出店したい場合には、次のような複数の稟議が必要でした。

  • 出店稟議(出店場所や投資額・損益分岐点の見込みを提示し、出店に向けて正式に動き出すための申請)
  • 資産取得稟議(出店のために取得する資産の購入稟議。1円単位で見積書をもらい、添付書類とする→総務で見積書と申請額に齟齬がないかチェック)
  • 契約稟議(具体的な賃貸借契約書の契約締結稟議)

しっかりした企業では、このように企画・執行・契約の稟議をそれぞれあげることも珍しくないと聞きます。受付側は同じことを何度も読む羽目になり、大変といえば大変ですが。

機密性をどの程度厳格に求めるか

前職では、【機密】扱いの稟議フォーマットも用意され、閲覧権限は承認ルートに入っている人だけ(+システム管理者)にのみ限定されていましたが、現職にはそういうしくみはないし、庶務担当が必ず閲覧することになってしまうので、稟議は遅れがちです。
本来、「こういう取り組みがしたい。1,000万円ください」という申請があるべきなのに、「こういうことをやりました。990万円の請求書が来たので払いたいです」という、私には事後稟議に思えるものも多い。。監査部と監査法人はどこを見ているのだろう…

「あまり知られたくないから稟議を後に回す」というのは本末転倒なので、必要なら機密性を確保した稟議システムを作ればいいと考えるのですが。

最近では、社内が透明であることを重視する企業が増えていて、経営会議の議論の内容程度であれば社内のグループウェアで公開するし、全役職員の経費精算さえ全員に閲覧可能にしている企業もあるほどです。
全員にオープンにすればカスタマイズも不要だし、「自分だけ知ってる」「自分だけ知らない」みたいな小さな諍いもなくなって合理的。これからはそんな企業が増えていくのでしょうね。

決める人をしっかり決める

稟議のしくみを改めてよく見ていると、起案者と決裁者の間にいる人たちは本当に必要なのか?という疑問が生まれます。決裁者がOKならOKなのだから、もはや決める人さえ決めておけば、あとはいなくてもよいのでは?と。

関連部門との調整は、言い出しっぺの起案者が責任を持ってやれよ…と思うのは、冷淡でしょうか。