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大阪で働く法務パーソンのはなし

賃貸借と転貸借

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転貸借のトラブル相談がありました。

「親亀がこけたら小亀もこける」は、賃貸借でよく言われる言葉ですが、親亀に乗っかっている小亀には、親亀がこけたかどうかを判断するのは難しいです。本当にこけるときみたいに、景色が変わったらよいのですが。

所有者から突然の連絡

先日当社に、当社が使用している物件の所有者を名乗る方から、「あの物件は借主に貸しているが、今年に入って賃料を滞納し、先日契約が終了した。ついては、現在、貴社は不法に占有しているので、即刻明け渡すか、前の借主の未払賃料と合わせてこれまでの使用料相当分を払った上で、私と新たに賃貸借契約を締結しろ」という趣旨の書面が届きました。

都心の一等地を有する方だからか、年配の個人とはいえ不動産実務にも明るいようで、物件の登記情報、契約関係、そしてご本人確認書類として運転免許証のコピーが同封されていました。そして、その後は連日のように催促のお電話…

事実が不明でも地主が言うなら明け渡した方がよいのか

届いた書類を見せてもらいながら現場にヒアリングすると、次のような事実が確認できました。

  • 当社は、所有者から借り受けた借主(転貸人)から借り受けた転借人(転々貸人)から転々借を受けている。
  • 所有者↔︎借主の賃貸借契約の存在は確認できたが、それが有効に終了しているかは不明。
  • 借主とはコンタクトをとることができない。
  • 転借人は、当社との契約終了に反対である。

「親亀(元の賃貸借)がこけたら小亀(その下流の転貸借)もこける」ので、所有者と借主の間の賃貸借契約が有効に終了していれば、所有者の意向に従い直ちに明け渡す必要があるのですが、所有者が個人ということもあって、肝心のこの部分の確認ができません。

借主は音信不通だそうなので、転借であれば所有者のいうことを信じて速やかに明け渡せば揉めることもないのですが、転々借だと間にもうひとり転々貸人がいるので話がややこしくなります。
「親亀がこけているかわからないのだから、契約を終了する理由がない。不当に解除するなら、その分の賠償をせよ」というわけです。そうなると、契約が有効に終了していることをこちらが立証しなければならず、結構難しい。

こういう場合、結論としては、「所有者が有効な契約終了を立証してくれるまでは何もしない」のが最善なのではと考えています。もちろん、「こんなややこしい物件はちょっと…」と転々貸人と合意解約できればベストですが。

賃貸借における「利益の存する限度」とは?

ところで、もし、所有者の言っていることがすべて事実であった場合、つまり、元の賃貸借契約は有効に終了し、その下流の転貸借・転々貸借も自動的に終了していた場合はどうなるでしょうか。

この場合、現に当社も物件をなお使用・収益しているので、不当利得を得ているために所有者に対して返還義務を負う可能性がありそうです。とはいえ、所有者が連絡があるまでは事情を知らなかったわけですから、民法703条に従い、「利益の存する限度」で返還すれば足ります。

では、賃貸借における「利益の存する限度」とは?
勉強不足だったのですが、この点はまだはっきりとした結論は出ていないのですね。ただ、物件を借りている当社としては、

  • 賃貸借で借主が受ける利益は、借り受けたものを使用・収益することである
  • 使用・収益する利益は日々消費されており、「利益の存する限度」はゼロである

という主張をしていくことになりそうです。

ちなみに、連絡を受けた後は悪意の受益者になってしまうので、受けた利益に利息をつけて返還することになります(民法704条)。ここでも、返還するのは、相場の賃料か、所有者が借主からもらっていた賃料か、当社が転々貸人に払っていた賃料か…と考えることがありそう。

できれば転借は受けたくないけれど

不動産の世界では常識だし所有者・賃貸人の立場を考えると自然な帰結とはいえ、元の賃貸借が終わったら転貸借も当然終了というのは、一般事業会社の人間にとっては受け入れ難いところがあります。

法務としては、「だったら転借なんてやめれば?」と言いたいところですが、そうはいかないことも多いんですよね。一応、転貸借の場合は、「事前に賃貸借契約の内容を教えてもらったほうがいいですよ」と助言はしますが、見せてくれるケースもレアでしょう。

元の賃貸借契約が有効に存続していること、あるいは終了していることをもう少し効率的に確認できるしくみがないものかなぁと思うのですが、登記も誰も使っていないので、やはり難しいでしょうかね。。